製薬関係の仕事に就いている方の中には「海外で働きたい」と考える人がいるでしょう。専門知識が豊富にあり、長年の経験があれば「海外でも簡単に仕事が見つかる」と思うかもしれませんが、実際に求人のある職種は限られています。
研究職や開発職といった職種ではなく、海外向け営業やマーケティング・総務などのポジションがほとんどです。また、応募条件として製薬業界での知識や経験が必須とは限りません。したがって、あなたの専門分野をそのまま活かせる海外求人があるわけではないのです。
一方で、現地採用であれば職種未経験であっても挑戦できる製薬業界の仕事も存在します。海外の製薬業界での転職を考えている方は日本人の需要がどのような職種にあり、どのようなスキル・経験が求められるのかをここで確認していきましょう。
もくじ
製薬業界で駐在を狙うなら国内メーカーの求人をチェックする
海外転職を考えたとき、待遇面を求めるのであれば駐在ポジションを狙うべきです。現地採用の場合は、その国の基準で給与や福利厚生が定められているので日本の会社と同じ待遇を求めるのは難しいです。
例えば、ヨーロッパの企業では住宅の補助や交通費の支給は基本的にありません。そのため会社の近くから通う人が多く、遠方から通勤するのは珍しいです。
一方で駐在員として海外に赴任する場合は、住宅手当や交通費・車の支給、その他日本への一時帰国の飛行機代など様々な手当があります。
ただ、駐在員の求人を探す場合、外資系の製薬メーカーではまず見つかりません。外資系メーカーでは自国の優秀な人材を海外に赴任させるため、日本人の駐在員をわざわざ配置する必要はないからです。
一方で、国内(内資系)メーカーの場合は、海外のマーケット開発など海外事業部門を任せられる日本人の需要があります。
そのため製薬業界で駐在員を狙うのであれば内資系の企業の求人を探しましょう。例えば以下では、日本の大手製薬メーカーが海外事業推進部の部長クラスの駐在員を募集しています。
入社後半年から1年は東京本社で研修を受けます。その後ASEAN(インドネシア・マレーシア・フィリピン・シンガポール・タイ・ブルネイ・ベトナム・ミャンマー・ラオス・カンボジアなど)、欧米のいずれかの国に赴任します。
そこでは代理店開拓や事業計画の策定、販売戦略を立てます。駐在場所によっては数百人のスタッフをまとめる重要なポジションなので、リーダーシップ・マネジメント力が求められます。
応募必須条件は「商社や食品メーカーなどでASEANもしくは海外で駐在していた経験がある」「代理店開拓・海外取引の経験」「ビジネスレベルの英語力」です。
必須条件をみると、製薬業界の経験というよりも海外での営業経験や駐在経験の方が重要視されていることがわかります。もちろん、海外で医薬品営業や開発・マーケティングの経験があると有利にはなりますが必須ではありません。
なお求人での年収は600~1,500万円との提示があります。製薬メーカーは給与が高いので魅力的だといえます。
海外事業の推進と経営管理を担う駐在ポジションの求人
その他、内部管理や財務管理のスキルが求められる駐在ポジションの求人もあります。例えば、以下の募集が該当します。
赴任先は中国です。中国事業の推進と子会社の経営管理に従事します。応募必須資格は「海外事業の経験」「中国での駐在や就労経験」「TOEIC800点以上」「中国での内部管理・財務管理のスキル」があることです。
この求人においても「製薬業界での経験があると尚可」との記載がありますが、必須項目ではありません。年齢制限は30~50歳までであり、年収は600~1,000万円程度です。赴任先が予め決まっているので、ミスマッチが生じにくいといえます。
将来的に海外駐在予定のポジション
また、入社時点で駐在時期が具体的に決まっているわけではないものの、将来的に海外赴任予定の求人も存在します。例えば以下のような求人が該当します。
勤務地は大阪です。国内大手の製薬会社で国際マーケティング・開発部に所属します。ここで、「海外マーケット向け製品開発」「リサーチ業務」「販売促進」「マーケティング」などを担当します。大阪本社で勤務したのち、駐在員として海外拠点のマネジメントを任される予定です。
応募必須条件は「メーカーで海外関連業務経験」「海外拠点の立ち上げあるいはマネジメント経験」「TOEIC800点以上」です。ここでも製薬業界の経験は問われません。むしろ「(前職の)業種については不問」との記載があります。
年収は500~700万円との提示がありますが、海外赴任になった場合は、ここに諸手当が付くので給与は大幅に上がると考えていて問題ありません。
ここでは3つの海外駐在予定の求人を紹介しましたが、いずれも製薬業界でのキャリアを求めていません。それよりも、海外との取引や就業経験のあるグローバルな人材を求めているのです。
ハイスキル・長年のキャリアがなくても海外の製薬業界で働くことはできる
一方で、「駐在員を目指すほどのハイスキル・経験がない」という方もいるでしょう。そのような場合は現地採用の求人を探すといいです。
例えば、以下の求人では世界トップクラスの外資系製薬会社がカスタマーサポートを募集しています。
勤務地はマレーシアです。冒頭で「駐在員の求人は外資系製薬メーカーにはない」と述べましたが、現地採用のポジションであれば外資系でも日本人向けの求人が存在します。
外資系大手製薬メーカーではカスタマーサポートの拠点を人件費の安い東南アジアなどの国に構え、世界各国の問い合わせに対応できるようにしています。その中で日本人の需要があるのです。
仕事内容はお客さんからの問い合わせに対してメールやチャット・電話を使って日本語で回答します。日本語だけで仕事をするのではなく、社内公用語は英語なのでグローバルな環境で就労できます。
応募資格は「医療知識がある」「専門・短大卒以上」「日常英会話以上の語学力」です。このとき、医療知識があれば未経験でも応募可能です。
月給は約19~26万円との提示があります。マレーシアの物価は日本の1/2~1/3程度といわれているので十分に生活していけます。
薬剤情報の管理・統計調査に従事する求人
その他、製薬会社ではありませんが薬剤統計など医薬品関係の仕事に携わることも可能です。アメリカの医療研究会社が統計調査に従事する日本人を募集しています。
勤務地はアメリカではなくフィリピンです。日本からの薬物接種に関しての問い合わせ対応や薬剤情報の管理・報告書の作成・提携している製薬会社との調整などに従事します。
応募資格は「英語が堪能」「高卒以上」「カスタマーサポートまたはテクニカルサポート経験」「医療関連の経験」があることです。医療関連の卒業者は優遇されます。
給与は約14~18万円(1ペソ2円で算出)の提示です。その他、お米手当・衣類手当・有給買い取り・医療費負担・13ヶ月ボーナスといった手厚い福利厚生があります。
ちなみにフィリピンでは、英語が公用語に含まれるほど一般的な言語であり、国民の多くが英語を話せます。さらに人件費が安いということもあり、アメリカをはじめ世界中から外注依頼が集まり、フィリピンの外注産業は大きな成長を遂げています。
私が以前勤めていたヨーロッパの会社でも、エクセルへのデータ入力などの単純作業は全てフィリピンに外注依頼していました。驚くほど仕事が早く、正確なので「フィリピン人は優秀だな」といつも感心していました。
このように、外資系企業がカスタマーサポートやコールセンターなどの部門を人件費の安い東南アジアなどに置いていることがあります。その場合は、外資系であっても日本人の需要があるので求人が存在するのです。
未経験者や「長年のキャリアが無い」という方は、このような求人を探すとよいです。
製薬会社で医療や薬に関する専門知識が求められない求人がある
海外の製薬業界に転職したいと考えている方は、海外営業職やマーケティング職ではなく研究職や開発職などをイメージすることが多いと思いますが、そのような求人は中途採用枠では基本的に存在しません。
ただ、総務やWEBシステム開発といった分野の求人は見つかります。そのため製薬企業の募集では、必ずしも医療知識が要求されるわけではないのです。例えば以下では、世界的な大手アメリカ系製薬メーカーが日本人の人事スペシャリストを募集しています。
勤務地はオーストラリア・メルボルンです。ここで総務・人事・法務関連の仕事に従事します。具体的には日本法人の人事給与計算業務をオーストラリア法人で行います。その他、社労士事務所や税理士事務所などの対応、レポート作成、人事システム関連のプロジェクトに参加します。
応募必須条件は「500名以上の大企業で人事経験」「ビジネスレベルの英語」「日本の労働法の知識」があることです。
製薬メーカーですが医療や薬の知識は求められません。年俸は520~720万円(1オーストラリアドル80円で算出)との提示があります。
オーストラリアは世界中から移住希望者が集まる住みやすい国として人気なため、就労ビザの取得が非常に厳しくなっています。求人自体が少ないので、応募条件を満たす求人を見つけた場合は挑戦することをおすすめします。
海外勤務ではなく、海外出張のある製薬業界の求人
ここまで紹介した求人は全て海外勤務を前提としたものでした。しかし、海外に住むことにこだわらずに「海外出張でグローバルな経験が積めたらいい」という方の場合は、他にも求人の選択肢があります。
製薬業界で海外出張のある求人があります。例えば以下のような求人がこれに該当します。
製薬メーカーに原薬や医薬品を提供する会社であり、海外営業(幹部候補)のポジションを募集しています。勤務地は大阪ですが、海外メーカーとの交渉などで不定期に海外出張があります。
具体的な仕事内容としては、海外顧客に対して原薬・食品添加物・化粧品原料・健康食品原料などの営業をかけて、その後の輸出・輸入まで担当します。応募必須条件は「海外営業経験」「ビジネス英語力(TOEIC730点以上)」「マネジメント経験」があることです。
年収は450~700万円との提示があります。このような企業で経験を積めば、前述した駐在員の求人にも応募できます。
大手製薬メーカーの海外登録実務ポジションは海外出張がある
また、ある国内大手製薬メーカーでは海外展開強化のため、以下の求人のような海外登録実務担当者を募集しています。
勤務地は兵庫県にある研究所です。ここで海外実務担当として、海外審査当局との交渉や海外登録申請書類の作成・各国の法規制の確認などに従事します。そのため海外への出張もあります。また、将来的には海外に駐在の可能性もあるポジションです。
応募必須条件は「一年以上、海外向けの製品の登録業務に関わった経験」「化粧品や医薬品などの研究開発業務経験」「英語を用いた実務経験(ビジネスレベルの英語力)」があることです。基本給(月給)は23万円以上であり、さらに残業手当・通勤手当などの諸手当が別途支給されます。
「いきなり海外赴任は不安」という場合でも海外出張で徐々にグローバル経験を積み、将来的に海外駐在員を目指すのは理想的なキャリアパスだといえます。
まとめ
製薬業界で研究員や開発業務に携わっている方が海外で経験・スキルを活かして転職する場合、あなたにピッタリ合う求人を探すのは難しいかもしれません。
一方で営業やマーケティング経験に加え、海外ビジネスの経験があれば現地採用はもちろん、国内製薬メーカーの駐在員のポジションも狙えます。その他、海外出張ベースの仕事に就くことも可能です。
また製薬業界未経験であっても、外資系製薬会社のコールセンターやカスタマーサポートであれば求人があります。このように、製薬企業で働くには幅広く職種を見なければいけません。
そこで求人を探す場合、まず複数の転職サイトに登録することをおすすめします。転職エージェントによって取り扱っている求人や得意とする分野が異なるからです。またあなた自身で探さなくても、転職エージェントの担当者があなたのこれまでのキャリアや希望に合った求人を紹介してくれます。
このようにして転職サイトを上手く利用して、海外転職を成功させましょう。
海外転職を実現するときであっても、転職サイトを利用するのが一般的です。日本に居ながら転職活動をするのが普通なのです(海外在住者も同じく転職サイトを使い、現地で活動する)。
ただ、海外転職に対応している転職エージェントは少ないです。日本にある転職サイトはほとんどが国内求人のみに対応しているからです。ただ探せば、問題なく海外求人に対応している転職サイトを利用することができます。
しかし、海外求人はそれ自体がレアです。また、「アジアに特化している」「専門性の高い求人ばかり保有している」など、転職サイトごとに特徴があります。そこで、2~3社の転職エージェントを利用して、見比べながら求人を探さなければいけません。
人によって狙っている国や求人は異なります。そこである程度まで求人の条件を絞って転職活動をしましょう。そのために必要な「海外対応の転職サイト」の特徴や違いについて、以下で記しています。