日本で経理や財務の経験があり、海外で働きたいと考えているのであれば海外転職は決して難しくありません。経理関係の業務ができる日本人は世界中に就職口があります。

ただ、需要があるのは外資系企業ではなく、海外にある日系企業です。現地採用はもちろん、駐在員として赴任できる海外求人も多く存在します。

一方で、日本の経理職とは業務内容が異なる部分があり、オールマイティーさや体力が求められます。また、多くの求人において豊富な実務経験や英語力が必須です。これらをクリアできるのなら海外駐在のポジションを目指すといいです。

ここでは、「経理や財務関係の海外求人が多い理由」「日本との仕事内容の違い」「経理・財務職の海外求人の特徴」などについて解説していきます。あなたに向いている海外求人でのポジションが見えてくるはずです。

なぜ経理・財務の海外求人が多いのか?

冒頭で述べた通り、経理・財務職は海外求人が多い職種です。なぜ、これらの職種は求人が多いのでしょうか。

私自身、海外で暮らしていると駐在員と知り合う機会が多いのですが、最も多い職種が営業、その次が技術関係、そしてその次が経理関係になります。初めは「なぜ経理で駐在員?」と正直不思議だったのですが、海外で働くとその理由が分かります。

大きく以下の3つの理由が挙げられます。

  • 日本とは異なり売掛金の回収が容易ではない
  • 現地スタッフではお金の管理がザル
  • 現地で経理スペシャリストを雇うと売上金を着服する可能性がある

まず、海外では日本と異なり「顧客相手が期限までにお金を支払ってくれるのは当たり前」ではありません。踏み倒しや請求書を無視することは普通にあります。

また、請求書を送り忘れていると日本の企業の場合は「この請求書がまだ届いていませんが」と連絡するのが普通です。一方、海外であればどんなに高額取引であっても請求書が来なければ相手は「ラッキー」と思って商品だけ受け取りそのまま放置します。

つまり売掛金の回収をきっちり管理しなければ、簡単に収益に狂いが生じてしまうのです。

「その程度なら営業でも管理できるのでは?」「現地で経理担当者を雇えばいいのでは?」と思うかもしれません。もちろん営業担当者・経理担当者でも売掛金の回収はできます。ただ、日本人のように丁寧に仕事ができる人材は少なく、経理マネージャーレベルであってもお金の管理が適当な人が多いです。

そのため場合によっては、高額給与を提示して経理や財務のスペシャリストを雇うこともあります。ただ、「それなら日本から駐在員を派遣しよう」と考える日系企業が多いのです。

また、優秀な経理スペシャリストを現地で雇うと売上金をごまかして着服してしまうケースもよくあります。会社のお金の流れを全て把握している重要なポジションだからこそ、多少コストがかかっても信頼できる優秀な日本人を赴任させる方が賢明なのです。

ただ、どの日系企業でも必ず日本人の経理担当を駐在させるわけではありません。事業規模が小さかったり、お金のやり取りが少なく経理業務がシンプルだったりする場合は、現地で経理あるいは財務担当者を雇います。

日本と海外での仕事内容の違い

海外でも日系企業であれば、経理・財務業務自体は基本的には変わりません。給与・税金の計算をしたり、日本本社に売上・決算報告書を提出したりするのが主な業務です。ただ前述したように日本と海外では事情が異なるので、日本のようにスムーズに経理作業が進まないことも多くあります。

そして日本との大きな違いは経理以外の職種の仕事を兼任することが多い点です。具体的に「経理+営業事務」「経理+人事」「経理+翻訳業務」などです。

また海外の支店ごとに経理担当者を雇うと、人件費が大きく膨らんでしまいます。そのため多くの企業で、経理職は幅広いエリアを担当します。

実際に私の知り合いにも経理職としてヨーロッパに駐在している人がいるのですが、1年中海外を飛び回っています。担当エリアはヨーロッパとアジアだそうです。健康で体力がなければ難しいポジションです。

例えば以下のような求人がこれに該当します。

勤務先は日系大手鉄道会社のベトナム事務所です。ここで、経理・人事・総務を兼任した会社の管理全般を担当する人材を募集しています。経理だけではなく3つのポジションを担うため、オールマイティーに対応できる能力が必要です。

また、ベトナム国内の各事務所を管理するため固定の勤務地は決められていません。ベトナム国内を行き来することになります。

なお、英語力については「ビジネス会話レベル」との記載がありますが、社内コミュニケーションがとれたり、契約書の読解ができたりするレベルで問題ありません。

このように英語力があり、幅広い業務を同時に遂行できるゼネラリストを求めていることがわかります。

経理・財務の海外求人の4つの特徴

それでは実際に海外求人を紹介しながら、経理・財務ポジション求人の特徴について説明します。以下のように大きく4つの特徴が挙げられます。

  • 資格よりも経験重視
  • 駐在ポジションを狙うならビジネスレベルの英語力は必須
  • 英語力が乏しくても現地採用で転職可能
  • アジア以外の国々(アメリカ・オーストラリア・メキシコ)でも広く求人がある

それぞれ詳しく見ていきましょう。

資格よりも経験重視が基本

海外で経理や財務職への転職を考えたとき、「米国公認会計士(USCPA)や英文簿記(BATIC)などの海外の資格が必要なのでは?」と思うかもしれません。

ただ前述の通り、就職先は海外の日系企業です。そのため特別な資格は求められない求人がほとんどです。むしろ、資格よりも実務経験が重視されます。なぜなら、現地ですぐに即戦力となって業務を進める必要があるからです。

海外支店で未経験者やキャリアの浅い人材を一から育てる余裕はありません。経理で未経験求人は期待できないのです。例えば以下のような求人がこれに該当します。

勤務先はアメリカにある一部上場企業の通信機器メーカーです。日本からの駐在員として赴任します。

応募条件には「豊富な経理経験(10年)」との記載があります。実務経験が10年必要となるものの、資格については特に記載がありません。

つまり経理関連の国際的な資格を保持していなくても、日本での経験があれば海外で経理の仕事に就けるのです。

駐在ポジションはビジネスレベルの英語力が必須

また前述の求人もそうでしたが、駐在案件を狙う場合であれば経験はもちろん、ビジネスレベルの英語力が必須となります。

企業は駐在員を派遣する際に多くのコストをかけるので、ハイスキルな人材を求めるのは当然です。駐在であれば以下のような求人が見つけられます。

勤務地はオーストラリア・シドニーです。日系家電・電気メーカーの海外子会社で決算業務をはじめ経理業務全般を担当します。

応募必須条件は「メーカーでの経理経験」「TOEIC850点以上」です。ビジネスレベルの英語力は必須となります。実務経験は求められるものの、駐在経験は不要です。

また駐在員待遇なので年収は700~1000万円と高額提示です。駐在員を目指せば年収アップも可能となります。

英語力が乏しくても現地採用で海外転職可能

一方で、海外転職を考えているとき、誰もがビジネスレベルの英語力や豊富な経理経験を有するわけではありません。そうしたとき駐在員のポジションではなく現地採用であれば、日常会話レベルの英語力で応募できる経理の求人が存在します。

勤務先は日系大手メーカーのタイ・ラヨーン事務所です。ここで財務・会計・営業事務のアシスタント業務を担います。日本からの駐在員のもとで、売上・予算・営業などのデータを集計・分析します。経理や財務だけではなく、経営アナリストとしてのスキルも同時に磨かれます。

必須条件はエクセル業務に長けていることのみです。英語力は日常会話レベル(TOEIC475~730点)でも応募できます。

「ビジネスレベルの英語力がない」「日本で経理・財務としてのキャリアが浅い」という場合はこのような求人を探すといいです。

アジア以外の国(アメリカ・オーストラリア・メキシコ)でも求人がある

また経理関係の求人の大きな特徴として、アメリカやオーストラリア、メキシコなどアジア以外の国々でも募集があることが挙げられます。

営業職やサービス職などの一般職の場合、海外求人の多くはシンガポール・マレーシア・ベトナム・タイといった東南アジアに集中しています。一方で経理・財務関係の場合、日系企業が進出している国であれば基本的に求人があります。例えば、スペイン語圏のメキシコでも以下のように求人を見つけられます。

勤務先はメキシコにある日系金型製作会社です。自動車向けの金型の設計・製造などをしている会社です。

ここで経理アシスタントとして日本本社へ報告する月次報告書の作成などを担当します。日本人経理担当の補佐のため、スペイン語が話せなくても応募可能です。

ちなみにアメリカやオーストラリア、カナダなどの英語圏だと、ビジネスレベルの英語は必須となる求人が中心なので、英語が苦手な場合はメキシコやアジアなど、英語圏以外の国で求人を探すといいです。そうしたとき複数の海外転職サイトに登録すれば、希望に合ったより多くの求人を見つけやすくなります。

海外出張ベースの国内求人も選択肢の一つ

なお、経理の場合は一つの事務所・支店に常駐しなくても、決算時など必要なときのみ海外出張して現地で経理指導や管理、監査対応を行うことが可能です。そのため、日本国内勤務で海外出張ベースの求人も存在します。

「いきなり海外転職は不安……」という場合は、このような求人に応募してみるのがおすすめです。例えば以下のような求人がこれに該当します。

勤務地は東京江東区です。フィリピン・マニラで総合レジャー産業(カジノ)を運営している海外子会社の経理業務を担当します。具体的には、連結決算業務や予算管理・子会社のマネジメント業務に従事します。

応募資格は「経理の実務経験5年以上」「ビジネスレベルの英語力(出張で会話できるレベル)」です。フィリピンへの出張先で会話ができる程度の英語力であれば、それほど難しくありません。

また、日本に居ながら国際経験が積めます。このようなポジションでキャリアを積めば、将来的に海外駐在を目指すことも可能です。

まとめ

ある程度の英語力があり、日本で経理・財務の実務経験があれば海外転職は容易です。ただし、海外の事情・仕事内容の違いをきちんと理解した上で転職活動を始めなければ、ミスマッチが生じてしまいます。

日本国内の一般的な経理職の場合、経理業務に集中して働くことができます。ただ海外勤務の場合は他の職種を兼任したり、幅広いエリアの事業所を担当したりする必要があります。そのため、オールマイティーに物事を進められる能力、そして体力が求められます。

また海外では経理・財務の実務経験があり、即戦力となる人材を求めています。「キャリアが浅い」という場合は駐在員のポジションを狙うのは厳しいです。ただ未経験でなければ、現地採用の求人はあります。

英語力に関しても同様です。駐在案件はビジネスレベルの英語力が必須となります。一方で、英語圏以外の国々の現地採用であれば、英語が苦手な場合でも応募できる求人が存在します。これらのポイントを理解して、希望に沿った求人を見つけるようにしましょう。


海外転職を実現するときであっても、転職サイトを利用するのが一般的です。日本に居ながら転職活動をするのが普通なのです(海外在住者も同じく転職サイトを使い、現地で活動する)。

ただ、海外転職に対応している転職エージェントは少ないです。日本にある転職サイトはほとんどが国内求人のみに対応しているからです。ただ探せば、問題なく海外求人に対応している転職サイトを利用することができます。

しかし、海外求人はそれ自体がレアです。また、「アジアに特化している」「専門性の高い求人ばかり保有している」など、転職サイトごとに特徴があります。そこで、2~3社の転職エージェントを利用して、見比べながら求人を探さなければいけません。

人によって狙っている国や求人は異なります。そこである程度まで求人の条件を絞って転職活動をしましょう。そのために必要な「海外対応の転職サイト」の特徴や違いについて、以下で記しています。