歯科衛生士・歯科技工士として日本で働いている人の中には「海外で資格を活かして働くことはできないのだろうか」と考える人がいます。海外にも歯科衛生士や歯科技工士の仕事は存在します。ただ、国によってルールが異なり、同じ資格を保持していても担当できる業務範囲が大きく異なります。
そのため、あなたが住んでみたいと考えている国で歯科衛生士・技工士の資格をそのまま活かして海外で働くのは正直難しいです。ただし国を選ばなければ、チャンスはあります。
一方で、歯科にこだわらなければ医療分野において海外転職は可能です。アジアを中心に医療通訳・医療事務などの求人が見つけられます。
ここでは歯科衛生士・歯科技工士の資格を持っていて海外転職したいと考えている人のために、海外で活躍する選択肢について紹介していきます。
もくじ
歯科衛生士・技工士の資格の書き換え・取り直しは現実的ではない
海外で働くことを考えたとき、現地で資格の書き換えや取り直しを検討する人がいると思います。国ごとに同じ職種あるいは類似の職種が存在しますが、法律や教育制度・職種に対する考え方が大きく異なるため免許の書き換えには非常に労力が要ります。
例えば世界的に不足している医師や看護師であれば、国によっては簡単に免許の書き換えができるところが存在します。一方で歯科衛生士・技工士は残念ながらそうではありません。そもそも、国によって職種の業務範囲が大きく異なります。
例えばオランダでは歯科衛生士が虫歯を削ったり、麻酔注射を打ったりすることが認められています。なぜなら歯科医師が国全体で不足しているからです。そのため、オランダで歯科衛生士として働く場合、日本では業務範囲外である患者さんの口腔内の処置ができなければなりません。
免許を書き換える場合、そのようなスキルも必要になるので養成学校で訓練して単位を取得し、さらに実習や研修・試験を受ける必要があります。
また、免許の書き換えで、最もハードルが高いのが語学面です。当然、テストでは現地の国の言語力はビジネスレベル以上が求められます。つまり、研修・試験にパスするのは難しいです。
このように外国の免許基準を全てクリアしようとすると多大な労力・時間・お金が必要になります。
国によっては、免許の書き換えよりもイチから大学あるいは専門学校に入学し直した方が早い場合もあります。日本で取得した単位がそのまま認められることもあります。ただ数年間学校に通うことには変わり有りません。学費も大きな負担になります。
このように時間をかけて現地の免許を取得したとしても、就労ビザの問題が生じたり就職口を見つけるのが大変だったりします。そのため、「海外で働く」ことが目的なのであれば、他の方法をおすすめします。
日本の資格がそのまま活かせるベトナムとカンボジア
ただ実は、日本の歯科衛生士・技工士をそのまま活かせる国が存在します。それは、ベトナムとカンボジアです。ベトナムとカンボジアには歯科衛生士・技工士という国家資格が存在しません。そのため就労ビザさえ取得できれば、歯科衛生士・技工士の業務を行うことができます。
これらの国の歯科治療は日本とは制度・治療方針などが大きく異なります。また、スキルを持った歯科医師は海外で働くことを希望するため、国内では歯科医師が不足傾向にあります。そのため、日系歯科医院は現地で暮らす日本人や外国人を中心に高い需要があるのです。
同時に、日本で経験のある歯科衛生士や技工士の就職口も見つかります。それでは実際に、どのような求人があるのか見ていきましょう。
英語力は日常会話レベルでOK
海外転職で大きな不安材料の一つとなるのが語学力だと思います。ただ、日系歯科医院で働く場合、患者さんの大半が日本人です。また多くの場合、現地スタッフの中に日本語と英語・現地の言葉がわかる人がいるので必要なときは通訳してもらえます。
そのため一般的に日常会話レベル以上の語学力が求められることはありません。例えば以下の求人を見てみましょう。
カンボジアの日系歯科クリニックで歯科衛生士・歯科技工士を募集しています。語学力に関しては「基本的な英会話ができるとよい」との記載があるのみです。
これも必須ではないので、たとえ「英語が全然ダメ」という場合でも応募は可能です。ただし、海外転職が決まったら勉強する必要はあります。
歯科衛生士の給料は日本と大きく変わらない
また、ベトナム・カンボジアでの就職となると「給料が低いのではないか」と心配する人もいると思います。ただ、就職先は日系歯科医院なので日本での給与額と大きな差はありません。例えば以下の求人を見てみましょう。
予防歯科に力を入れているベトナムの歯科医院で歯科衛生士を募集しています。ベトナムでは虫歯などの予防に対する意識が非常に低いため、歯科衛生士としてできることがたくさんあり、やりがいも大きいです。
またこの歯科医院では、訪問診療・歯科矯正・インプラント・審美治療にも力を入れているので、これらの経験があると選考において有利となります。
給料は月給制で22~32万円(残業代を含まない)との提示があります。日本国内で働く場合と金額は大きく変わりません。さらに残業代が加われば年収は日本よりアップする人もいます。また物価の安いベトナムでは余裕のある暮らしができます。
歯科技工士の場合、歯科医院以外の歯科技工所で働くことも可能
なお歯科技工士の場合は就職先の選択肢は診療所だけではありません。技工所に勤務することも可能です。ただ、求人が豊富にあるわけではないので、見つけたらすぐに応募することをおすすめします。例えば以下のような求人がこれに該当します。
勤務先はベトナムにある技工所であり、矯正歯科技工物の製作・品質管理に従事します。また、現地スタッフの指導も重要な仕事の一つです。ベトナムには歯科技工士という国家資格が存在せず養成学校などもありません。
そのため、技工士として就職してから少しずつスキルを身につけていきます。つまり、日本人でキャリアのある歯科技工士はベトナム人に技術を伝授できる貴重な存在なのです。
このような技工所は、急成長を遂げる東南アジアで今後もマーケットが拡大することが予想され、将来性のある仕事場ともいえます。
また給与は月額30~70万円との提示があり、日本国内で働くより高給が期待できます。
免許が使えなくても歯科衛生士に近い仕事ができる
また歯科衛生士・歯科技工士としての仕事は限られるものの、経験・知識を活かせる求人も存在します。国家資格が存在する国では日本の免許は使用できません。ただ、例えば歯科衛生士であれば、患者さんの口腔内に触れずにできることがあります。
虫歯予防のアドバイスをしたり、口腔内に触れずにブラッシング指導をしたりする、などです。また、歯科助手の仕事であれば免許がなくても従事できます。
そのため、ベトナムやカンボジア以外の国でも日系デンタルクリニックで日本人の歯科衛生士を募集していることがあります。以下のような求人がこれに該当します。
タイとスリランカで歯科衛生士を募集しています。これらの国にはそれぞれ自国の国家資格が存在するため日本の免許は使えません。そのため、法律で認められる範囲内での歯科衛生士業務や歯科助手の仕事を担当することになります。
ただし、このような求人は非常に少ないです。特に歯科助手の仕事は知識や経験がなくてもできるため、既に就労ビザを保持した人を採用する傾向にあります。例えば以下になります。
このようにシンガポールで歯科助手の求人を見つけられますが、就労ビザを持っていない人は応募できません。
そのため、応募条件を満たす歯科関係の求人を見つけたら、真っ先に応募することをおすすめします。もちろん、より多くの求人を探せるように複数の海外転職サイトに登録しておく必要があります。
歯科にこだわらなければ医療分野での海外転職が可能
ここまで述べた通り、歯科分野にこだわるとどうしても選択肢が少なくなってしまいます。一方で、医療分野全般に視野を広げると様々なチャンスが見えてきます。
例えば「医療通訳」「医療コーディネーター」「医療事務」といった職種です。ただしこれらの職業に就く場合は、日常英会話以上の英語力があることが大前提です。医療分野の専門知識や経験よりも英語力が重要視されます。そのため、「英語に自信が無い」という場合は、海外転職の前にまずは英語力を磨く必要があります。
「それなら結局留学しないといけないのでは?」と思うかもしれませんが、格安のオンライン英会話で十分です。レッスンを集中して受ければ、日本に居ながらビジネスレベルの程度の英語力を身につけることができます。
それでは医療分野での職種について、それぞれどのような国でどんな仕事をしていくのかみていきましょう。
病院勤務の医療通訳
海外で生活する日本人にとって、病気やケガをしたとき大きな不安材料になるのが医療従事者とのコミュニケーションです。専門用語が多いので「日常会話なら問題ない」という人でも医療通訳を必要とすることが多いです。そのため医療通訳の需要は高く、求人を見つけやすいです。
例えば以下のような求人がこれに該当します。
タイ・バンコクにある総合病院で医療通訳を募集しています。医療知識は必須ではありませんが、日本語と英語をそれぞれ通訳できる語学力が必須です。
総合病院なので歯科関連の医療通訳を担当できることもあり、あなたの専門知識を活かせる場もあります。
医療コーディネーター・医療事務などを兼任するポジション
医療コーディネーターと聞いてもピンと来ない人が多いと思います。医療コーディネーターとは「医療スタッフと患者さんとの間に入って、患者さんをサポートする職種のこと」です。特に海外では治療方針について戸惑うこともあり、その不安を取り除く重要な役割を果たします。
日本人患者の多い病院では日本人の医療コーディネーターを配置するところが多いです。例えば以下のような求人がこれに該当します。
勤務先はマレーシアにあるクリニックです。医療コーディネーターの仕事だけではなく、医療通訳や医療事務にも従事します。
医療事務といっても、日本の医療事務の仕事とは大きく異なります。そもそも、海外には日本のような公的医療保険システムが存在しません。国民各自が民間の医療保険会社に加入します。
そのため、ある治療や薬代が保険でカバーできるかどうかは保険会社によって変わってくるので、「ローカル保険引受審査」という業務が発生します。また治療の中には、日本の医療保険が適用されることがあります。このように、医療保険に関する知識を身につけていくことになります。
歯科にこだわらなければ、医療分野で仕事を見つけることは簡単です。東南アジアの様々な国で求人があります。歯科衛生士や技工士の技術や知識を直接活かせる業務内容ではありませんが、健康に何らかの問題を抱えた患者さんの手助けをする仕事であることは共通しています。
まとめ
取得したライセンスを活かして海外転職したいと考えるのが普通ですが、歯科衛生士や技工士の免許をそのまま活かせるのはベトナムとカンボジアのみです。これらの国以外で類似の仕事を見つけるのは難しいです。また、求人を見つけたらすぐに応募する必要があります。
このとき、現地での免許の書き換えや再取得は時間・労力・コストがかかるため賢い選択とはいえません。
一方で、歯科分野にこだわらないで医療分野にまで視野を広げれば、医療通訳や医療コーディネーター・医療事務などのポジションで海外転職は可能です。ただし、ある程度の英語力が必須です。
海外転職の進め方としてはまず、資格を活かせるベトナム・カンボジアを中心に求人を探し、希望する仕事が見つからなければ医療分野にまで選択肢を広げてみるといいです。これが、歯科衛生士や歯科技工士の海外転職で重要な戦略です。
海外転職を実現するときであっても、転職サイトを利用するのが一般的です。日本に居ながら転職活動をするのが普通なのです(海外在住者も同じく転職サイトを使い、現地で活動する)。
ただ、海外転職に対応している転職エージェントは少ないです。日本にある転職サイトはほとんどが国内求人のみに対応しているからです。ただ探せば、問題なく海外求人に対応している転職サイトを利用することができます。
しかし、海外求人はそれ自体がレアです。また、「アジアに特化している」「専門性の高い求人ばかり保有している」など、転職サイトごとに特徴があります。そこで、2~3社の転職エージェントを利用して、見比べながら求人を探さなければいけません。
人によって狙っている国や求人は異なります。そこである程度まで求人の条件を絞って転職活動をしましょう。そのために必要な「海外対応の転職サイト」の特徴や違いについて、以下で記しています。