海外駐在や海外移住などにより海外で働くことが決まった場合、住民税や所得税はどうなるのでしょうか。一般的に、これらの税金の支払いは「住民票の有無」で決まります。

「海外で働くのであれば住民票は抜かなければいけないのでは?」と考えている人がいるかもしれませんが、住民票を残すかどうか選択できるケースがあります。それぞれメリット・デメリットがあり、あなたの状況によってメリット・デメリットのうちどちらが大きくなるか変わってきます。

当然、あなたが支払うべき税額は変わってきます。またどのような形態で収益を得るのかによって、確定申告の有無についても違ってきます。

ここでは海外転職や海外勤務が決まり、住民税や所得税に関する疑問を抱えている人のために、どのような選択肢があるのか解説していきます。

住民票を残せば、住民税・所得税を日本で納めなければならない

日本国内の居住者は日本で住民税と所得税を納める必要があります。国内の居住者かどうかは基本的に「住民票の有無」で決まります。

「なるべく税金は払いたくないから住民票は抜く」と考える人がいるかもしれませんが、納税義務があっても住民票を残した方がメリットの大きいケースがたくさんあります。

また、「海外赴任になり、生活の拠点を海外に移す場合は住民票を転出するのが一般的なのでは?」と考える人が多いのではないでしょうか。しかし、住民票を残すかどうかはあなたが自由に選択できるのです。

厳密には、「1年以上海外に滞在する場合は住民票を転出する」というルールがあります。ただ実際のところ、海外に何十年住む人であっても、住民票を日本に残すのは問題ありません。参考までに、特に以下の人では住民票を残すケースが多いです。

・海外の赴任期間が定かではない

海外赴任の期間が1年未満の長期滞在でない場合は、住民票を残しておいて問題ありません。実際のところ、「駐在期間がいつまでなのかあらかじめ会社から伝えられていない」「一年後に契約更新があるので分からない」という人もいます。

海外で生活する期間が一年未満の可能性がある場合は、住民票を残すかどうかはあなたが判断しましょう。

・日本と海外を行き来する

海外勤務であっても日本と海外を行き来するケースがあります。例えばヨーロッパに住んでいる私の知り合いの駐在員は一年中海外を飛び回っており、その人の場合は「オランダと日本の両方に住民票を置いている」と話していました。

ちなみに、私の実家がある日本の自治体からは「1年に1度以上、日本に帰国するのであれば住民票を残しておいてもかまわない」と説明されました。極端に言えば、「海外移住しているが、1年に1回日本に一時帰国するなら住民票を残しておいたままでかまわない」ということになります。

ただ、これについては自治体によって大きく方針が異なる場合があります。

・一時帰国時のみ住民票を戻す

ちなみに私も含め多くの海外駐在員の家族は、一時帰国の際に住民票を戻しています。このメリットとしては、一時帰国時に「子どもの医療費が無料になる(健康保険に加入していて医療費助成の対象となる場合)」「児童手当がもらえる」などが挙げられます。

ただ、これについても自治体によって考え方が大きく異なります。実際に私の友人は一時帰国の際に住民票の転入届を提出したところ、「海外在住者の一時帰国による住民票の転入は受け付けられない」と断られたそうです。

そのため、日本で追加で受けなければならない子どもの予防接種は全て自己負担しなければならなかった、と不満をこぼしていました。

いずれにしてもあなたの状況によって、住民票を残すかどうか選択できます。住民票を残すかどうかについてはメリット・デメリットを知り、よく考えた上で選択しましょう。

住民票を残すメリット

住民票を残せば、いくつかの納税義務は発生するもののそれ以上のメリットを受けられることがあります。ここでは大きく以下の3つのメリットがあります。

  • 医療費の自己負担を抑えられる
  • マイナンバーが使える
  • 児童手当が支給される

それぞれについて解説します。

日本の健康保険に加入できる

日本国内から住民票を転出すると国民健康保険への加入資格を失ってしまいます。任意で加入することもできません。

※海外駐在員など日本国内の企業と雇用契約を結んだまま海外赴任する場合、たとえ住民票を抜いても健康保険・厚生年金保険・雇用保険などの資格は継続されます。

住民票を残す最大のメリットは「日本の健康保険に加入でき、医療を安価に受けられる」という点ではないでしょうか。海外で暮らすと日本の医療保険制度がどれだけ恵まれているのか痛感します。

例えば、欧米では何か不安な症状があるときは、まずハウスドクター(かかりつけ医)に電話します。緊急でない限りその日に診てもらえることは少なく、数日後に予約が取られます。そのため診察当日には症状が治まっていることも度々あります。

また、医療費も高額です。アメリカで駐在員をしている私の知り合いは、ただの風邪なのに診察代で10万円近く請求されたと話していました。

このように海外では日本と医療システムが大きく異なり、医療費もかさむので私の知り合いの多くは、緊急でない手術や治療は一時帰国の際に済ませる人が多いです。

・日本の健康保険を海外に適用する

参考までに、海外で日本の健康保険が使用できるケースがあります。例えば歯科の治療や出産費用などがこれに該当します。海外で歯の治療をした場合は国民健康保険が適用されます。高額な支払いをしても日本の診療基準に基づいて返金されます。

また海外での出産についても、出産一時金が支給されます。さらに帝王切開の場合は高額療養費の対象となることがあり、自己負担限度額を超えた金額が払い戻されます。

このように日本の健康保険は一時帰国のときだけでなく、海外での一部の治療においても使えるため、大きな恩恵を受けられるのです。

マイナンバーを継続して使える

マイナンバーがあると何かと便利です。例えば行政手続きがオンラインで申請できたり、身分証明書として使用できたり、コンビニで証明書(住民票など)が取得できたりします。

例えば私の場合、一時帰国のときにマイナンバーカードを発行し、新たに銀行口座を作るなど金融サービスに申し込んだことがあります。

一方で、マイナンバーがないと日本で金融サービスの開設ができないことは多く、制限を受けることになります。

児童手当がもらえる

小さな子どもがいる家庭にとって児童手当がもらえるのは大きなメリットです。3歳未満であれば月1.5万円、3歳以降は月1万円が支給されます。

渡航してから子どもを持ちたいと考えている場合、このあたりについても検討しておくとよいです。

ちなみに、住民票があれば一時帰国の際に子どもを区認定の一時保育に預けることが可能です。私も一時帰国のたびにこの制度を利用しています。市区町村によって利用料金や制度は異なりますが、1日預けても4000円程度でランチとおやつ付きです。

月の回数に上限があるので週に1~2回程度になりますが、一時帰国で子どもの面倒をみるのが大変な場合にとても役に立ちます。

住民票を残すデメリット

ただ、住民票を残すデメリットも理解しましょう。住民票を残すということは日本国内の居住者として様々な税金や保険料を支払う義務が発生することを意味します。つまり、住民票を置くにはお金がかかるのです。

主に納めるものは「所得税」「住民税」「健康保険料」「年金保険料」の4つです。また、確定申告がどうなるのかについても理解しなければいけません。それぞれ詳しく見ていきましょう。

所得税は日本国内で得た国内源泉所得に対して納税義務が発生

所得税は所得に応じて税率が異なり、5~45%の6段階に区分されています。ただ、これについては日本国内で得た収入が対象となります。

中には、「日本に住民票があれば海外所得に対しても所得税が発生するのでは?」と考える人がいると思います。ただ日本に住民票を残していても生活の実態が海外居住であれば、居住している国(外国)で所得税を納めればよく、日本で納税する必要はありません。

一方で、「住民票がない=所得税がかからない」というわけではありません。住民票のない非居住者であっても、日本での国内給与に関しては所得税を納める必要があります。非居住者の所得税は高く、約20%の税率で源泉徴収されます。

国内で発生した所得としては、日本にある不動産収入が代表例です。

国内源泉所得があれば住民税を納める義務がある

住民税についても年収によって変わってきますが、年間で数十万円納めるのが一般的です。課税所得の10%が住民税です。

ただ、「前年所得が35万円以下の場合」や「1月1日時点で日本国内の市町村に住所がない人」に関しては納税の義務がありません。つまり、旦那さんが海外単身赴任で働き、専業主婦の妻だけが住民票を残した場合は住民税を納める義務は発生しません。

ちなみに海外赴任が決まり、1月1日までに住民票を転出すれば前年度の住民税を支払う必要はありません。渡航時期を選べるのであれば、12月31日以前のタイミングで住民票を抜けば数十万円の税金対策になります。

また住民税は国内所得をベースに課税額が決まるので、所得税がゼロであれば住民税もかかりません。つまり、所得税も住民税も国内源泉所得がなければ納税義務は発生しないのです。

健康保険料や年金保険料の金額

健康保険料は収入に応じて納める額が変わってきます。日本で支給された給与や賞与の約5%を健康保険料として支払わなければなりません。ただ、日本国内での収入が無い場合、健康保険料はゼロで済みます。

海外移住した私の友人は一時帰国の度に住民票を転入して、健康保険に加入しています。友人自身は日本での収入がないため、保険料はかからないと話していました。

・毎月納める年金保険料

また住民票のある人は、日本の企業に在籍している場合は厚生年金、それ以外の人は国民年金に加入する義務があります。厚生年金は収入によって変わり、国民年金は月額約16,000円です。いずれにしても毎月数万円以上を納めることになります。

なお、居住している外国でも公的年金制度に加入している場合、海外と日本の2重で年金保険料を支払うことになってしまいます。これについて、国によっては手続きをすることで、どちらか一方の年金加入のみで済むケースがあります。

年金保険は健康保険とは異なり、住民票がなくても任意で加入が可能です。「海外移住を考えているけれど、老後のことまでは分からない」という場合に任意で払い続ければ、たとえ海外で暮らしていても将来年金が受給されます。

確定申告はどうなるのか

前述した通り、住民票があってもなくても日本での源泉所得が無いのであれば、日本で所得税を納めないので確定申告の必要はありません。

ただ、日本での収入がある場合は税金の支払い義務があります。前述の通り、「保有する不動産所得」などが該当します。

つまり、海外で暮らしていて日本の持ち家を誰かに貸して家賃収入がある場合は確定申告しなければなりません。海外から確定申告する場合は、あらかじめ代理人を選定して税務署に届けておく必要があります。住民票のあるなしに関わらず、日本国内で収入がある場合は確定申告しましょう。

また、海外転職や海外赴任が決まった場合は渡航までに年末調整を終わらせましょう。そうすることで源泉徴収された所得税が一部還付されます。

まとめ

海外で働くことが決まった場合、住民票を残すかどうかはあなた次第です。住民票があれば「健康保険に加入できる」「マイナンバーを使える」「児童手当がもらえる」と様々なメリットがあります。

一方で、住民票を残せば住民税や所得税、各種保険料を納める義務が発生します。ただし、日本国内で不動産収入や源泉所得がないのであれば年金保険料以外はゼロで済みます。

また、たとえ住民票を転出しても一時帰国の際に転入すれば様々な恩恵が受けられます。ただし、自治体によっては受け付けてくれないこともあります。

住民票を残すことがあなたにとってプラスになるかどうかは、あなたの海外勤務の状況によって大きく変わってきます。今後のことも考えながらどっちを選ぶのが賢い選択なのか、出国までに決めましょう。


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