アパレル業界で働いている方の中には、「海外で働いてみたい」「海外で暮らしたい」と考える方がいます。

「仕事をするなら、ファッショントレンドの発祥地パリでデザイナーとして働きたい」「流行に敏感なニューヨークでスタイリストとして活躍したい」と考えるかもしれません。ただ、実際にデザイナーやスタイリストの求人を見つけることはかなり厳しいです。

もちろん、個人的にファッションに関する特別な才能があればその才能を活かして活躍することはできるでしょう。それでは、アパレルでの海外転職を諦めないといけないのかというと、ほかにも道はあります。

ここでは、海外のアパレル業界で働くためにはどのような職種があり、実際にどんな求人があるのかを述べていきます。

海外で募集があるアパレル求人のほとんどが東南アジア

海外で仕事を探し始めるとき、「流行に敏感でオシャレな人が多く住むアメリカや欧米の都心部でアパレル関係の職業に就きたい」と思う方が多いかもしれません。しかし、日本人が海外でアパレル業に就こうと思うと、求人のほとんどが東南アジアに集中していることがわかります。

その理由は、日本で販売されている衣料品やアクセサリーのほとんどが人件費の安い中国・東南アジアの工場で生産されているからです。日本から近い国だと輸送コストも抑えることができます。

ちなみにヨーロッパでは「Made in China」よりも「Made in Portugal(ポルトガル)」「Made in Morocco(モロッコ)」「Made in Turkey(トルコ)」の洋服をよく見かけます。

以下は、実際に私がヨーロッパで購入したポルトガルで生産された洋服のタグです。

ヨーロッパではアジアよりも、近隣諸国の工場で生産されているものが多い印象を受けます。

これと同じように、アパレルではどうしても近隣諸国がメインとなります。そのため海外で日本人が働ける職種は、アジアにある工場生産に関わる仕事がメインとなります。

営業職ならアメリカや欧米勤務の求人もある?

なお、営業の場合はアメリカや欧米勤務もあります。しかし、そのほとんどが駐在員であり本社から派遣されます。私の知り合いにも欧米で駐在しているアパレル商社の駐在員がいますが、新卒で入社しています。

駐在員のポストは社内でも人気であり、社内成績や語学力が優れていないと海外駐在員を目指すのは難しいです。

つまり、高い語学力やアパレル業界での長年の営業経験がなければ、アメリカや欧米に支部を置く日系アパレル企業で営業職に就くことは難しいです。

こうしたことからも、海外でアパレル関係の仕事に就きたいのであればアジアを中心に求人を探しましょう。

海外のファッション業界で求人のある職種とは?

それではどのような求人であれば海外転職できるのでしょうか。以下には、ある程度の求人数がアパレル業界内にあり、特別な資格がなくても就ける職種を挙げました。

  • ショップ店員
  • アパレル企業での企画職(マーチャンダイザー)
  • アパレル企業での営業職
  • アパレルの生産管理職
  • パタンナー

アパレルでの一般的な職種を挙げましたが、海外求人の場合それぞれ事業が異なります。以下で詳しくみていきましょう。

海外勤務のショップ店員の求人は厳しい

日本国内のアパレル業界で働きたいと考えた場合、まず思いつくのがショップ店員ではないでしょうか。求人数は豊富で、経験が求められることも少ないでしょう。

これについて、海外のアパレル店でもショップスタッフの求人募集はたくさん存在しますが、日本人の需要はありません。現地の人で十分足りるからです。

ただ日系企業のアパレルブランドの場合はアメリカでも日本人向けにアパレル販売員の求人があります。例えば以下の求人だとニューヨークやカリフォルニアの店舗でショップスタッフの募集があります。

ただし、顧客はアメリカ人なので店頭にてネイティブと対等に接客できる英語力が必須です。また、「ビザを申請出来る方」との記載があり、ここで多くの方は条件を満たすことができません。

つまり海外でアパレル店員として働くためには、「その国の就労ビザを持っている」「現地の言葉が話せる」ことが必須です。

私の友達は、スペイン人と結婚してスペインのZARA(ファストファッションブランド)でショップ店員として働いています。彼女はもちろんスペイン語が話せて、スペインでの就労ビザを持っています。

こうしたことから、言語力・就労ビザが無い状態で、日本から海外のショップで販売員の仕事を見つけるのは現実的ではありません。

アパレル企業の企画職(マーチャンダイザー)は経験が求められる

前述の通り、アパレルメーカーでデザイナーとして仕事を見つけるのは日本でも大変です。そもそも求人数が少ないです。しかし、プランナー職(企画)であれば海外勤務の求人があります。アパレル業界ではマーチャンダイザーとも呼ばれます。

ファッションプランナーは、流行や消費の動向を見極めた上で商品を企画します。シーズン毎のコンセプトを決めて使う素材を選んだり、予算・販売数・価格を決めて販売戦略を立てたりする仕事も担当します。

例えば、以下は日系アパレルメーカーのマーチャンダイザーの募集です。勤務地はベトナムのホーチミンです。

仕事内容は商品企画や生産計画などマーチャンダイザーとしての業務に加えて、工場内の生産状況をチェックしたり、不良品の対応をしたりと生産管理の仕事も兼ねています。

そのため、こちらのポジションとしては「縫製またはアパレルメーカー業界でマーチャンダイザーの業務経験があること」が必須条件となっています。加えて、「4年制の大学を卒業している」「日常会話レベル以上の英語力」が求められます。

・未経験で応募可能な企画職もある

一方で、未経験からでも挑戦できる企画職の募集もあります。例えば、以下の中途採用募集がこれに該当します。

こちらの企業はラコステやカルバンクラインといったアパレルブランドのOEMを手掛けています。

企画職の仕事内容は企画マップや仕様書の作成、サンプル依頼、修正打ち合わせ、発注書作成、現物商品のチェックなどです。勤務地は東京あるいは中国のいずれかですが、もちろん希望を最大限考慮してもらえます。

応募条件は「繊維業界・アパレル業界・服飾業界での実務経験」のみです。職種未経験者歓迎なので、企画職が未経験でも問題ありません。

そのほか、語学スキル不問・学歴不問です。服装は自由なので「オシャレを楽しみながら仕事をしたい」という方に向いています。

未経験から海外勤務に挑戦できるアパレル企業の営業職

また日本のアパレルメーカーが海外で自社商品を取り扱ってもらうため、海外に赴任する営業職の求人を募集することがあります。

このときは海外の百貨店やアパレル専門店などを周り、営業をかけます。また、日本の素材メーカーが海外のアパレルメーカーに自社の素材を使用してもらうよう営業をかけることもあります。

例えば以下の求人は、アパレル会社で法人営業を担当する中途採用の求人募集です。

勤務地はベトナムのロンアン省です。スポーツ衣料品を取り扱う日系アパレルメーカーで法人営業業務全般を担当します。顧客はベトナム内にある日系企業が8割、欧米企業が2割です。

また、生産管理担当者と連携して商品の納期管理にも従事します。営業経験に加えて生産管理の知識も得られるので幅広い経験を積めます。

必須条件は「4年制大学を卒業していること」のみです。通訳者がいるため語学は不問です。またアパレル未経験者でも応募できます。

・営業コーディネーター(営業事務)の求人もある

そのほか、東南アジア・アメリカ・ヨーロッパなどでアパレル資材の製造販売を行うアパレル企業で営業コーディネーターの募集があります。

営業コーディネーターの仕事は日本からの注文管理、生産管理、顧客への連絡など、営業事務に近い仕事を担当します。

経験不問・学歴不問(短大以上)ですが、ビジネスレベル以上の英語力(TOEIC600点以上)とタイでの勤務経験が求められます。当然いまタイに住んでいる人でも応募できます。

なおビジネスレベルの英語力と聞くと「絶対無理」と思う方もいるかもしれませんが、TOEIC600点以上であればきちんとTOEIC対策をすれば誰でも目指せる点数です。

実際にタイで英語を使う場合、英語を母国語とするアメリカやイギリスとは環境が大きく異なります。セカンドスピーカー同士で会話する場合、完璧な文法や完璧な発音は求められません。英単語を並べた片言でも、お互い意志疎通が図れたらそれでいいのです。

つまり、英語を母国語としない国では、「ビジネスレベルの英語力」を求められたとしても、そこまで高い英語力でなくても通用します。

海外転職の求人数が豊富なアパレルの生産管理職

こうした中でも、アパレルメーカーで海外勤務の求人数が最も多いのが「生産管理職」です。生産管理職はいわば、アパレル商品のものづくりの部分を担当します。

前述した通り、アパレル商品を生産している工場の多くは人件費の安い中国や東南アジアにあります。そのため生産管理職であれば海外で働けるチャンスがあるのです。

生産管理職は販売企画を元に生産スケジュールを立てて、納期に間に合うよう販売までの全ての流れを管理します。指定された素材を調達し、原価を交渉し、作業工程の指示や納期の管理に至るまで幅広い業務を担当します。

素材や縫製に関する知識が求められるため、ファッション業界での経験や服飾専門学校で学んだことなどが活かせます。

また生産管理職の場合、駐在のポジションで海外赴任も可能です。工場長クラスになると年収800万円以上も狙えます。

日本国内のアパレルショップ店員はハードワークな上に給与も高くありませんが、海外で生産管理職を目指せばキャリア・年収アップを期待できます。

実際に転職サイトには、工場長まで見据えた生産管理職の求人が多く掲載されています。例えば以下では、ベトナムの工場で勤務する工場長候補者を募集しています。

現地工場のスタッフとコミュニケーションを取って就業環境の向上や生産管理・コスト管理・品質管理など、工場に関するマネジメント全般を担当します。

年収は最大600万円程度ですが、工場長に就任後は「800万円プラス海外手当」と記載があるのでかなりの高収入です。しかも、高収入が狙えるポジションにも関わらず未経験からでも挑戦できます。さらに語学力も問われません。

縫製業務に関しては入社してから学び、将来的には現地スタッフの指導も行います。生産管理の仕事に就けば、アパレル業界の専門知識やスキルを身につけられます。

・高卒でも管理職に透ける

そのほかにも、高卒であっても海外工場なら管理職に就けます。例えば以下はミャンマーのアパレル製品工場で出された工場管理の募集です。

仕事内容は工場全体の工程管理、工場運営管理、品質管理などです。

必須要件は「高卒あるいは専門学校卒業以上」のみです。「英語力があると良い」と記載がありますが、必須ではありません。しかも現地責任者が日本人なうえ、日本語通訳も勤務しています。

年収は300~400万円と高くはありませんがミャンマーでは生活費がほとんどかかりません。さらに、こちらの求人では福利厚生に住居が含まれています。食費は外食しても100円以下でランチが食べられるほど安いです。したがって月給のほとんどを貯蓄に回せます。

・品質管理の仕事も一般的

また、工場で品質管理の仕事をメインに担当する求人も存在します。以下は品質管理・検品責任者の募集要項です。

インドのグルガオンエリアの責任者として、品質管理・検品業務・マネジメント業務に従事します。

この仕事では、メールのやり取りや日本本社からの出張者やお客さんの対応なども担当します。オフィスと工場内を動き回りながら仕事を進めるので、ローカルの環境で働くことができます。

応募必須条件は「日常会話レベルの英語力」「アパレル業界経験」です。優遇条件として「製造業経験」「ヒンディー語が話せる」が挙げられています。「アパレル業界での経験を活かして海外で活躍したい」という方におすすめの求人です。

・購買や営業も関わる生産管理の求人

続いて紹介するのは、同じく生産管理職ではありますが、購買や営業にも従事できる仕事内容です。

タイで「和の装飾品(シルバーアクセサリー)」の生産管理や購買業務を担当します。そのほか、本社からの問い合わせ対応や着物レンタル問い合わせ対応・営業に至るまで幅広い業務を担当します。

業種未経験で英語力や学歴は問われません。ただし、タイ語が日常会話レベル以上必要です。タイに住んでみたいと考えている方やタイ語が得意な方にとっては魅力的な求人といえます。

アパレル業界の花形!パタンナーの海外求人

さらには、パタンナーという選択肢もあります。パタンナーとは、「洋服をつくるための型紙を作成する専門職のこと」です。洋服などを作ったことのある方なら分かると思いますが、型紙を元に生地をカットして縫い上げて洋服をつくります。

パタンナーは専門職ではありますが、仕事で特別な資格が必要なわけではありません。ただし、生地のカット方法や縫製手法などの専門知識が求められるので服飾系の専門学校で学んでいる方が転職には有利です。

パタンナーは仕上がりのシルエットや生地の性質、着心地などを考慮しながら精度の高い型紙を起こすので、「パタンナーの腕次第で商品の仕上がりが決まる」といっても過言ではありません。

アパレル業界の中でも花形職種ともいえるパタンナーの仕事は、日本国内でも人気があります。ただ転職サイトを使って探せば、海外勤務のパタンナーの求人を見つけることができます。

生産過程とも関わることの多いパタンナーは、工場内で働くこともあります。そのため海外勤務の求人があるのです。例えば以下は、ユニクロが募集しているメンズパタンナーの求人です。

ユニクロのR&D部門であり、メンズ製品のアウター・ボトムス・カットソーのパターンメイクに従事します。

勤務地は上海です。しかし中国語や英語が必須ではありません。ただし、応募資格は「メンズ商品のパターンメイクの経験」「商品企画から本生産までの工程を管理した経験」が求められます。したがって未経験から挑戦することはできません。

給与は年収400~1000万円とかなり幅があります。パタンナーとして経験を積んで実力を伴えば、海外で働きながら年収1000万円稼ぐことができるといえます。

ちなみに、ユニクロでは同時に布帛(ふはく:織物のこと)・カットソー・ランジェリーを担当するウィメンズパタンナーでも募集しています。

・実務未経験でもパタンナーは可能

また、「パタンナーの勉強はしたけれど実務経験が無い!」という方は以下の求人であれば応募できます。

こちらは勤務地が中国の広東省であり、駐在員として仕様確認パターン管理業務に就きます。

実際にパターンを作成するわけではなく、出来上がったパターンの仕様を確認したり、工場に指示を出したりします。サンプルのチェックや外注パターンの管理も行います。

応募条件としては、「パターンや仕様の知識が豊富」「CADの操作が分かる」などが挙げられます。服飾系の専門学校を卒業して、アパレル業界である程度の経験を積んでいれば条件を満たせます。

まとめ

日本国内でファッション関係の仕事に就いている方でも、日系アパレルメーカーの企画職・生産管理職・営業職・パタンナーの仕事を探せば「海外で働きたい」という夢を叶えることができます。

また、日本のアパレル店員の場合、ハードワークな上に給与が高くありません。20代であれば働き口が多く見つけられますが、30代・40代となってくると求人数自体が減ってきます。

そうしたときに、海外でアパレルのものづくり工程に携わっていた経験があれば、日本に帰国してからも経験を活かして転職することが可能です。「ファッション業界でキャリアを積んでいきたい」と考えている方にとっても、海外で働くことが今後のあなたの人生でプラスに作用するといえます。

そのため東南アジアをメインとした海外求人へ目を向けましょう。そうすれば、より好条件で転職できるようになります。


海外転職を実現するときであっても、転職サイトを利用するのが一般的です。日本に居ながら転職活動をするのが普通なのです(海外在住者も同じく転職サイトを使い、現地で活動する)。

ただ、海外転職に対応している転職エージェントは少ないです。日本にある転職サイトはほとんどが国内求人のみに対応しているからです。ただ探せば、問題なく海外求人に対応している転職サイトを利用することができます。

しかし、海外求人はそれ自体がレアです。また、「アジアに特化している」「専門性の高い求人ばかり保有している」など、転職サイトごとに特徴があります。そこで、2~3社の転職エージェントを利用して、見比べながら求人を探さなければいけません。

人によって狙っている国や求人は異なります。そこである程度まで求人の条件を絞って転職活動をしましょう。そのために必要な「海外対応の転職サイト」の特徴や違いについて、以下で記しています。