日本の公認会計士・税理士の資格を持っている方の中には、「日本でしか資格が通用しない」と思っている方が多いのではないでしょうか。
「アメリカで働くならUSCPA(アメリカの公認会計士の資格)が必要なのでは?」と、USCPAの資格を取得しようと考える方もいると思います。
しかし、実際にはUSCPAの資格を持っていなくても日本の公認会計士・税理士の資格を有していれば、海外で働くことは可能です。
特別なスキルや知識が不要な一般的な仕事に就く場合、海外転職では働く国の選択肢が狭く、アジア圏が中心となります。一方で、公認会計士・税理士の資格を持っているとヨーロッパや北米などへの就職も可能です。日本の国家資格であるにも関わらず、グローバルに活躍できます。
また、海外転職するにあたり年収アップを重要視する方の場合、Big4と呼ばれる監査法人を検討する方もいるでしょう。こうした会社の求人募集はあるのでしょうか。
ここでは、公認会計士・税理士の資格を活かした海外勤務の求人や年収などについて紹介します。さらに、「USCPAを取得するべきなのか」「Big4など大手への海外転職が可能なのか」についても述べていきます。
もくじ
USCPA(米国公認会計士)・国際会計士を取得すると海外就職できるのか
まず「USCPAなど国際会計士の資格取得=海外就職できる」というわけではありません。実際に日本の転職サイトで求人を探してみても、USCPA(米国公認会計士)の資格が必須な求人の勤務地は全て日本国内です。
また、USCPAに限定しない場合、以下の求人票のように必要資格のところは大抵「公認会計士あるいは税理士あるいはUSCPA資格をお持ちの方」と並列されています。
つまり、USCPAの資格があると選考が有利に進む可能性はありますが、応募自体は公認会計士・税理士であっても申し込めるのです。
既に公認会計士や税理士の資格があるのであれば、さらにUSCPAを取得しても海外転職において大きな差はありません。それよりも転職においては、公認会計士や税理士としてのキャリアが重要視されます。
また、USCPAを取得しようとすると独学では難しく、予備校に通うとなると1年以上の時間と100万円以上の費用がかかります。そこまでの時間と費用をかけてUSCPAを取得するよりも、入念にリサーチして海外転職し、実際に働き始めた方が賢明といえます。
私の知り合いにも、日本の会計事務所で働きながら、海外で転職活動をした公認会計士の方がいます。大手監査法人でM&A案件に携わってきた長年のキャリアがあるため、「求人はたくさんある」と話していました。
ただ彼の場合、妻子がいるためどの国を選ぶか非常に迷ったそうです。いくら仕事内容や雇用条件が良かったとしても、「家族が住みやすい国」「子どもの教育がきちんと受けられる国」でなければ、海外転職しても結局日本に帰国しなければならなくなってしまいます。
海外転職する場合は、そのような点も含めて求人を検討する必要があります。
USCPAを活かせるケースはある
もちろん、「USCPAを取得しても、まったく意味がない」というわけではありません。私の知り合いにもUSCPAを保持していて、大手海運会社で駐在をしている方がいます。彼女は海外支店の経理部長を兼任しており、担当エリアは「日本以外」だそうです。
ヨーロッパに彼女の自宅はありますが、ヨーロッパ各国・アジア諸国やアメリカなど1年中海外を忙しく飛び回っています。そうした彼女はまさに、グローバルに活躍している米国公認会計士といえます。ただし彼女の場合は、日本の公認会計士の資格は持っていません。
彼女のようなポジションはUSCPAの資格を最大限活かせたポジションといえます。しかし、彼女はアメリカの大学を卒業しており、日本国内で資格を取得したわけではありません。したがってあなたがUSCPAを取得したとしても状況は異なります。
さらに、このような求人は常にあるわけではなく、あなたがUSCPAの資格を取得しても転職したいタイミングで求人が見つかるとは限りません。
無資格の状態から海外の会計事務所へ転職したい場合、USCPAの取得は意味があるかもしれません。しかし、日本で会計の専門資格を既に保有しているのであれば、新たに勉強するよりも早めに求人を探したほうがいいのは既に述べた通りです。
公認会計士・税理士の資格を活かして就ける海外転職の求人
それでは具体的に日本の公認会計士・税理士の資格を活かして海外で働くためには、どのような求人を探せばよいのでしょうか。狙うポジションは以下の3つです。
- コンサルファームの海外駐在
- コンサルファームの現地採用
- メーカー・商社の経理職
それぞれ詳しくみていきましょう。
まずは「コンサルファームの海外駐在員の求人」についてです。海外には多くの日系企業が進出しているため、現地で財務系コンサルティングなどの需要があります。
以下の求人がこれに該当します。
日系中国進出企業に対する財務会計コンサルティングを担当します。勤務地は中国の上海です。経済成長が著しい中国では多くの日系企業が進出しており、複数の会計・税務のコンサルティング求人があります。
「中国における財務会計・税務サービス」「経営全般のアドバイス」「クライアントが抱える問題に対して幅広いサービス」などの仕事に従事します。
必須要件は「公認会計士もしくは税理士」のみです。入社時に中国語は求められませんが、赴任後に学ぶ必要があります。年収は600~1200万円が提示されています。
こちらの企業は、母体が法律・特許事務所なので幅広い分野に対応する経験を積めます。
アジア各国で海外転職が可能な求人
また、「中国だけでなく、様々な国で経験を積みたい」という方もいるでしょう。世界各国で勤務可能な求人も存在します。
例えば以下のような求人です。海外に多数拠点を構える急成長中のコンサルティングファームでの中途採用募集です。
勤務地は、インドネシア・ベトナム・インドなどのアジア各国となっています。駐在期間は4~5年ですが、その後も駐在を継続する場合はその他の国への異動が可能です。年収は400~1000万円と幅があります。
仕事内容は日系のクライアントに対する海外事業運営支援、税務会計支援全般です。具体的には日系クライアントの対応・ローカルスタッフへの業務指示・M&Aや企業再編などの支援業務です。
そのほか記帳代行や決算業務、各種申告書作成業務に従事します。
応募条件は「監査法人、税理事務所等での経験3年以上」「各国会計士、税理士資格保持者」「英語がビジネスレベル以上」です。活かせる資格として「公認会計士/税理士/USCPA」の記載があります。
様々な国でコンサルティングの経験が積める上、海外で長期的に暮らせるため、魅力的な求人といえます。
ヨーロッパや北米でも応募可能な求人がある
さらに、アジア諸国だけでなくヨーロッパやオーストラリア・北米などへの海外赴任のチャンスがある求人もあります。以下は海外各国の拠点で、海外進出コンサルタントとして携わる中途採用の求人です。
勤務地は台湾・香港・シンガポール・フィリピンといったアジア諸国からメキシコ・オーストラリア・ドイツまで、多くの選択肢があります。
仕事内容は、海外進出している日系企業に対する現地でのコンサルティング業務全般です。具体的には、進出支援・ビジネスマッチング・会計や税務処理支援・海外法人不正調査・決算支援・M&A・組織再編支援などです。
必須条件は、公認会計士あるいは税理士の資格を持っていることです。年収は500~800万円です。他社に比べると給料は低いかもしれませんが、色々な国で国際的に会計士・税理士として活躍できるのは魅力的だといえます。
コンサルファームの現地採用で活躍する
ここまで紹介したのは、日系企業での駐在員採用になります。ただ、同じコンサルファームでも駐在ではなく、現地採用の求人が存在します。現地採用の場合、駐在と比べて年収は低くなりますが、勤務地があらかじめ決まっているので「この国には赴任したくなかった」といったミスマッチを避けることができます。
また、駐在は期間がだいたい3~5年程度ですが現地採用だと好きなだけその国で生活することができます。海外移住を考えている場合は最初から現地採用で転職することをおすすめします。
例えば、以下のような求人がこれに該当します。
勤務地はベトナムのホーチミンであり、募集職種は「国際税務コンサルタント」です。「会計・税務コンサルティング業務」「顧問先の監査支援業務」「企業PR活動」「マネジメント業務(現地スタッフの管理など)」などの仕事に従事します。
こちらの企業はベトナムに進出している日系企業2500社のうち、700社以上のコンサルティングのシェアを誇っている会計事務所です。
応募資格は「USCPA、公認会計士、税理士のいずれかの資格を持っている」「英語に抵抗がない(TOEIC500点以上が目安)」です。ちなみに、TOEIC500点以上についてですが、日本の義務教育をきちんと受けていれば、英語が得意でない方でも取得できる点数です。
したがって「英語力はあまり求められていない求人」ともいえます。
一方で年収は450~700万円となり、先に紹介した求人よりも低くなりますが、物価が日本の3分の1以下ともいわれるベトナムではかなりの高収入です。ベトナムに移住しても贅沢な暮らしを満喫できるでしょう。
また、インドのグルガオンでも現地採用の財務コンサルティングの募集があります。以下のような求人です。
仕事内容は日系企業の進出・設立サポートと日系顧客業務アドバイスです。
具体的にはプロジェクトの立ち上げ・マネジメント、社内現地専門家間のコーディネーション業務(会計記帳・税務申告・国際税務・法廷監査・インド法など)、英語で現地専門家との協議、メール対応、会議出席、文書の英訳、新規日系顧客の発掘など多岐に渡ります。
必須条件は「ビジネスレベルの英語力」です。公認会計士・USCPAの資格を持っていると、未経験でも応募可能な上に選考過程で有利に働きます。年収は経験や能力によって変わるため具体的な提示はありませんが、資格保持者であれば優遇してもらえます。
このようなポジションで経験を積めば、インド投資に関わる全般的な知識や国際税務・法廷監査業務に携わる経験など公認会計士・税理士としてのキャリアが築けます。
大手メーカー・商社の経理職も求人が多い
海外転職できるのはコンサルファームだけではありません。企業の経理職も狙い目です。例えば以下は、東証一部上場企業が募集している経理ポジションの募集要項です。
応募資格は「制度会計と経理全般業務経験がある」「決算業務の経験」「財務諸表作成スキル」「中級レベルの英語力(TOEIC650点以上)」「日商簿記2級程度」です。
「会計士・税理士・日商簿記2級以上は優遇致します」との記載があるように、資格保持者は選考が有利になります。また、募集年齢は20~30代とありますが、税理士や公認会計士・CPAの資格保持者は40代まで可能です。
仕事内容は、経理部で制度会計(会社外部の利害関係者へ説明するための財務会計と、税金の申告に必要な税務会計のこと)と管理会計(内部の関係者に見せるために作成する会計)に従事します。
具体的には経理部の中の審査課(制度会計)に所属します。グループ連結決算の補佐や監査法人の対応に従事します。
制度会計や監査業務など会計・財務・税務全般の幅広い業務を担当できます。年収は500~700万円とコンサルティングファームに比べて低いですが、一部上場企業でのこのような業務経験を積むと、キャリア形成につながるといえます。
ただし入社後の勤務地は海外ではなく東京都です。将来的に海外転勤の可能性があるポジションなので、「すぐに海外転職したい」という方には向いていません。
・駐在員として海外勤務前提の求人
一方で、「海外転勤を前提とした求人」もあります。以下は専門商社の経理職のポジションです。
勤務地は東京都ですが、2~3年後に海外子会社への駐在を前提としています。なお、駐在期間は3~7年を想定しています。
仕事内容は、経理関連業務全般です。日常経理業務や決算業務、開示業務・税務申請業務・子会社管理・M&Aに関連した会計処理・監査法人対応などです。
国内・海外の子会社に対する指導やサポートを行う機会もあり、経営管理的な視点を養えます。必須条件は「事業会社あるいは監査法人・会計事務所での3年以上の経験」「英語力(TOEIC600点以上)」です。
英文財務資料の読解や作成の場面で英語力が必要となります。そのほか、歓迎スキルとして「公認会計士、税理士の資格をお持ちの方」との記載があるため、公認会計士や税理士の資格保有者は優遇されます。
想定年収は550~800万円と記載されていますが、海外駐在期間中はここに様々な手当て(住宅・車・家族手当など)が加わるので実質の年収は大きく上がります。
監査法人Big4への海外転職は現実的に難しい
なお海外で働くことに加え、「年収アップを実現させたい」と考えている人の中にはBig4と呼ばれる監査法人に転職して、そこから海外赴任を狙う方もいると思います。
ちなみにBig4とは、「新日本・あずさ・トーマツ・PwCあらた」の4監査法人を指します。Big4の社員の平均年収は1000万円以上といわれています。
しかし、結論から述べるとBig4に転職して海外赴任を任される可能性は非常に低いです。なぜならBig4では、わざわざ募集をかけなくても自社内で海外赴任させられる優秀な人材が揃っているからです。
例えばトーマツの場合、新卒採用の時点で海外赴任枠を設けています。
応募資格として「日本国外の大学の学士以上を取得あるいは取得見込み」と記載があるので、そもそも海外の大学を卒業する予定の新卒者でなければ応募できません。
このように新卒で入社する時点で十分な英語力を備えた人材を採用し、入社後に国内で研修したのち海外に赴任されるのです。
もちろんこのようなBig4の監査法人は中途採用を実施しているので、あなたが既に海外での豊富な財務コンサルティング経験があれば、海外勤務の可能性も期待できます。しかし、国際経験のない状態で海外ポジションの採用は難しいといえます。
まとめ
日本の公認会計士・税理士の資格を持っていればUSCPAの資格をわざわざ取得しなくても海外で働くことは可能です。しかも働ける国の選択肢が多いという点も資格保持者ならではの大きなメリットです。
また、紹介した求人の中には高い英語力が求められないポジションも多く、日常会話レベルの英語力さえあれば応募できます。
年収を重視するのであれば、コンサルティングファームや大手メーカーの駐在員に就くのが一番近道です。一方で国を重視するのであれば、コンサルティングファームの現地採用を狙うのがいいです。
このように公認会計士・税理士の資格を持っていれば、豊富な求人があるので海外で働くことは難しくありません。ただし、選択肢が多いからこそ今後のキャリアやあなたの人生プランをよく考えましょう。
また、複数の転職サイトに登録してプロの視点から、キャリアアドバイスをもらうのもおすすめです。そうして海外求人を探せば転職に成功できます。
海外転職を実現するときであっても、転職サイトを利用するのが一般的です。日本に居ながら転職活動をするのが普通なのです(海外在住者も同じく転職サイトを使い、現地で活動する)。
ただ、海外転職に対応している転職エージェントは少ないです。日本にある転職サイトはほとんどが国内求人のみに対応しているからです。ただ探せば、問題なく海外求人に対応している転職サイトを利用することができます。
しかし、海外求人はそれ自体がレアです。また、「アジアに特化している」「専門性の高い求人ばかり保有している」など、転職サイトごとに特徴があります。そこで、2~3社の転職エージェントを利用して、見比べながら求人を探さなければいけません。
人によって狙っている国や求人は異なります。そこである程度まで求人の条件を絞って転職活動をしましょう。そのために必要な「海外対応の転職サイト」の特徴や違いについて、以下で記しています。