日本国内ではキャリアプランを立てやすいですが、海外転職すると「キャリアが止まってしまうのではないか」と心配する人は多いです。

確かに海外の労働市場で求人選びに失敗すると、「キャリアアップできない」「日本に帰国してから希望する仕事に就けない」という事態に陥ることもあります。ただ、きちんとキャリアプランを立て、正しく海外求人を選べば海外経験は大きなキャリアアップにつながります。

このとき重要なのは、「海外だからこそできるキャリアアップとは何か」「日本に帰国しても通用する仕事かどうか」の2点を意識することです。

ここでは、どのように海外転職を活かしてキャリア形成を図るかについて詳しく解説していきます。

転職回数を気にするのは日本だけ

まず、海外でのキャリア形成について考える前に、転職自体に躊躇している人がいると思います。日本では転職回数が多いと良い印象を受けないです。また、働いている会社を裏切ることになると考える人も多く、転職しづらい雰囲気があります。一方で、海外の転職事情は異なり、転職はネガティブなこととして捉えられません。

特にアメリカやヨーロッパではキャリアチェンジやキャリアアップのために転職する人は多く、辞める同僚に対してエールを送るのが普通です。採用する企業も転職回数や学歴といった過去のことよりも「現在のあなたがどういう人物であり、何ができるのか」ということを重要視します。

そのため既に転職回数の多い人は、むしろ日本より海外の方が転職しやすい可能性があります。

一方で転職回数が増えたとしても、海外で貴重な経験ができたり、新たなスキルを身につけられたりする方が、あなたのキャリアに大きなプラスとなります。そのため、「転職回数が増えてしまう」ということを気にする必要はありません。

海外転職でキャリアアップを図るには?

それでは、海外転職でキャリア形成を図るにはどうしたらいいのでしょうか。そのためには、以下のポイントを意識して求人を選ぶといいです。

  • 語学力を磨く
  • 外国人のマネジメント経験を積む
  • 現地の文化・価値観を理解する
  • 日本に帰国しても通用する仕事に就く

それぞれ詳しく解説していきます。

語学力を身につけることであなたの市場価値がアップする

既にあるあなたのスキルに語学力が加われば、あなたの市場価値はよりアップします。例えば「IT関係のスキル×英語力」の場合、その次のキャリアで就ける仕事の幅が大きく広がります。

具体的には日本に帰国後であれば、転職先として「外資系企業社内IT担当」「海外プロジェクトを中心とするIT企業」「ITコンサルタント」など様々な選択肢が増えます。このように英語力が加わることで相乗的にキャリアアップが可能になります。

このようなキャリア形成を図るには、海外転職で語学力を磨くことが必須になります。ただ、語学力は海外で生活すれば自然に身につくものではありません。実際に私はヨーロッパで生活していますが、駐在員の奥さんは半数以上英語が話せません。海外で暮らしていても自ら積極的に学ぼうとしない限り、語学力は磨かれないのです。

そのためいま英語力が低い場合、語学力が身につく求人を探すといいです。「外国人がたくさん働いている」「語学学校のスクール費用を負担してくれる」「福利厚生に語学レッスンが含まれている」といった企業であれば、積極的に語学力を磨けます。例えば以下のような求人がこれに該当します。

勤務先はフィリピンにあるIT企業です。ここで3年以上実務経験のあるITエンジニアを募集しています。仕事内容は「ローカルエンジニアのマネジメント」「プログラム内容のチェックと修正」「日本顧客とのやり取り」などです。

業務上英語を使うことが多いですが入社時点では語学力は必要なく、入社後に土日や就業後の時間を利用して語学学校へ通い英語力を磨いていきます。語学学校の費用は会社がサポートしてくれます。

仕事でも英語を使う機会があるので、語学学校で学んだことをすぐに活かすことができます。このような環境下に身を置けば、1年以内にビジネスレベルの英語力が身につきます。

外国人のマネジメント経験は大きなスキルとして評価される

続いて、海外転職で得られる経験の中で重要なものの一つが「外国人のマネジメント経験」です。外国人のマネジメントは、日本人が苦手とする業務の一つであり、日本人の部下を管理するのと同じようにはいきません。

例えば、海外では部下を他の社員の前で叱る行為はご法度です。一度そのようなことをしてしまうと、二度とその部下はあなたのことを信頼してくれないでしょう。人前で怒られるのは、外国人にとって最も自尊心が傷つけられる行為の一つだからです。

また海外では、上司は「部下が働いてくれている」というスタンスで接します。そのため威圧的な態度を取ったり、仕事を頼むのは当たり前という気持ちで接したりしていると、あなたを上司として認めてくれません。海外では上司と部下は対等にあり、部下であっても上司に対して意見をはっきり主張します。

また海外では仕事に対して合理的な考え方が一般的なので、無駄なミーティングや仕事終わりの飲み会、サービス残業などは全く理解を示してくれません。

ちなみに私の主人もヨーロッパで外国人をマネジメントしていますが、「指示内容が子どもでも理解できるくらい明確でないと絶対やってくれない」と愚痴をこぼしています。

日本人部下であれば多少曖昧な指示であっても上司の意図を汲み取り、業務を進めてくれますが、海外では同じようにいかないのです。このような外国人の部下を上手くマネジメントするには、やはり経験を積むしかありません。

ただ、外国人のマネジメントができるようになると、あなたのスキルとして評価されます。日本人も外国人もマネジメントできる人材であれば、海外でも日本に帰国してからでも重宝されるのです。

あなたのキャリアアップにつながるスキルなので、海外転職では外国人のマネジメントの機会があるポジションを選ぶことをおすすめします。例えば以下のような求人がこれに該当します。

求人募集があるのは、ベトナムにある生産工場です。ここで生産・製造・品質管理やエンジニアの育成・製造全体の監督に従事する拠点責任者候補を募集しています。マネジメント業務としては、現地スタッフの技術指導や人事評価などです。

応募条件は「社会人経験が3年以上」「マネジメント経験1年以上」です。工場に通訳が在籍しているので入社時に語学力は問われません。

このようなポジションで経験を積めば、外国人をマネジメントする経験を積めます。参考までに、アジアの求人は新人であってもマネージャー職以上がほとんどであり、高確率で現地の人のマネジメント経験を積めます。

現地・外国の価値観や文化を理解してグローバルな人材になれる

また海外で働くと文化や価値観の違いに驚くことが多々あります。私自身、海外で働いてその違いに最初は戸惑ったものの、理解して受け入れグローバルな考え方ができるようになったと思っています。

特に以下の2点は日本と大きく異なる部分です。

  • 宗教に関する風習を理解する
  • 仕事に対する価値観の違い

それぞれ詳しく説明します。

・信仰している宗教を理解する

日本は宗教色の強くない国なので、誰が何を信仰しているのかをあまり気にしません。しかし海外では様々な宗教を信仰している人が同じ職場で働いており、その宗教のことを理解していないと非常識な人と思われてしまいます。

例えば、イスラム教徒の神聖行事である「ラマダン」の期間中は注意が必要です。ラマダンの1ヶ月間、イスラム教徒の信者は日の出から日没まで断食を行います。食べ物はもちろん水さえ口にしません。

そのためラマダン期間中の職場では、飲み物や匂いのする食べ物を本人の前で口にしないように気を遣う必要があります。またイスラム教では豚肉やお酒を禁止していることは有名です。

あなたの渡航する国では、どのような宗教が主流であり、どのように現地の人と接するべきかを事前によく確認しましょう。さらに入社後は彼らに理解を示し、受け入れていく姿勢が重要になります。

・日本と海外では仕事に対する考え方が大きく異なる

日本では「会社や家族のためにお金を稼ぐことを目的として働いている人」が多いですが、海外では「生活を豊かにするために働いている人」が多いです。つまり仕事に対する価値観が大きく異なります。

日本人の場合、「家庭よりも仕事を優先して会社に貢献し、お金を稼ぐ」のに対し、海外では「仕事よりも家庭や自分の豊かな暮らしを優先し、その手段の一つとして会社で働く」という考え方を持っている人が多いのです。

そのため、「無駄な残業は一切しない」「自分の担当以外の仕事は絶対引き受けない」「自分の都合でも休みたいときは休む」という姿勢で仕事に取り組みます。

一概に日本の考え方が素晴らしい、海外の方が優れているとは言えませんが、自分とは全く違う考え方を持つ人たちの意見や姿勢を知ることが重要なのです。

このように異文化の同僚と協調性を持って接するには、相手の文化を知ることが非常に重要です。異国の文化や価値観を理解し、受け入れられるようになれば、あなたはグローバルな考え方のできる人材となって市場価値が上がります。

日本に帰国することも視野に入れた仕事選び

海外就職するときは、先を見据えて日本に帰国しても通用するポジションに就くことをおすすめします。例えば、いまは「海外にずっと住む」と考えていた人であっても、親の介護が必要になって帰国しなければいけなくなるかもしれません。そこで日本に帰国することも視野に入れて求人を選んでおけば、海外経験を積んで日本に戻ったとき、さらにキャリアアップが可能になります。

既にあなたにあるスキルや経験に加えて、高い語学力や外国人のマネジメント能力、グローバルな考え方のできる人材になれば、日本で転職先には困りません。

一方で、以下の場合は海外就職の後、日本で転職活動が難しくなる可能性があります。

  • 日本人の職場で日本語しか使わない仕事に就く
  • 日本に帰国したときに40歳を超えてしまう

これらの理由について確認していきましょう。

・日本の会社と変わらない労働環境で働く

海外就職したにも関わらず、日系企業で日本人の同僚に囲まれ、日本語のみで仕事をしていた場合、海外での就労経験はキャリアにプラスとならない可能性があります。

例えば以下のような求人がこれに該当します。

勤務地はタイ・バンコクであり、日本人の生活をサポートする営業の仕事を担当します。つまり、日系企業で日本人の同僚に囲まれながら、日本人相手に日本語で営業することになります。

このような環境で働いても残念ながらグローバルな経験は積めず、仕事を通して語学スキルを磨くことも難しいです。

もちろん、あなたがプライベートな時間を使って語学学校に通い、語学力を磨くのであれば転職活動時でプラス評価されるでしょう。ただ、働きながら語学力が身につき、グローバルな経験が積める仕事に就くことをおすすめします。

・日本に帰国したときに歳をとりすぎてしまう

親の介護など仕方ない理由ではなく、将来的に日本への帰国を視野に入れているのであれば、あなたが帰国するときの年齢を逆算しておくべきです。日本の転職市場では30代後半を超えると一気に求人が減ってしまうからです。

そのため、十分なキャリアや特殊な専門スキルがある場合を除いて、海外転職する時点で「何歳くらいに日本に帰国しよう」と決めておきましょう。海外での経験も大切ですが、あなたがその間に歳をとりすぎてしまうと日本での転職で不利になってしまうリスクがあるからです。

もちろん、現地での生活が気に入ればそのまま移住すればいいですし、また違う国に転職する選択肢もあります。ただ、一つの選択肢として日本帰国を残しておくのであれば年齢は意識するべきです。

例えば以下のように、長期間の就労を前提に募集している求人には注意が必要です。

ベトナムにある金属加工工場で工場長を募集しています。製造マネージャーとして現場作業、現場・生産・品質・スタッフの管理に従事します。

応募必須条件に「金属加工の実務経験がある」「工場でマネジメント経験がある」「長期間ベトナムで働ける」ことが挙げられています。このとき、長期間が具体的に何年間なのか記載されていませんが、2~3年で辞めることを想定しているのであれば応募はおすすめできません。

将来、日本に帰国することを考えているのであれば、日本に戻ったときにあなたが何歳になっているのかまで視野に入れて求人を選びましょう。

キャリアアップができる求人例には何があるのか

それでは、具体的に日本での経験を活かして海外でキャリア形成を図るには、どのような求人が優れているのでしょうか。もちろんいまの職業と関係している必要はありますが、例として具体的な内容を挙げて紹介していきます。

まずはキャリアパスが明確なポジションであれば、モチベーションを保ちながら目標を見失うことなくキャリアを築いていけます。例えば以下のような求人がこれに該当します。

勤務先はタイ・バンコクにあるコンサルティング会社です。日系企業向けに人材育成や組織開発に関するコンサルティング業務に従事するポジションで募集があります。リクルート業界で働いていた人であれば経験を活かせるポジションです。

一通りのコンサルタント業務ができるようになれば、ビジネスの運営全般を担える拠点長として活躍することが可能です。また希望があれば他の国の拠点長として赴任もできます。

さらには日本へ帰国後は外資系リクルート企業やコンサルティング業界への転職が可能になります。これは一例ですが、このような入社後のキャリアパスが明確に示されており様々な可能性のあるポジションを狙えば、キャリアプランが描きやすいのでおすすめです。

これまでの知識やスキルを活かして異業種・関連職種を狙う

なお、営業職やマーケティング職・経理や事務職といった一般的な職種は海外転職においてもそのまま同じ職種で求人が見つかります。

一方で、日本で専門資格が必要であったり、日本特有の業界で働いていたりする場合、海外では同じポジションの求人を見つけるのが難しくなります。

そうしたとき、「海外でのキャリア形成は難しい……」と諦めるのではなく、あなたの知識・経験・スキルを活かせる関連職種を探してみましょう。

・銀行員なら海外の保険会社や証券会社などに就職できる

例えば日本で銀行員として働いているのであれば、海外転職で「メガバンクの駐在員」「現地の銀行員」を考える人がいると思います。ただ、これは非常に競争率が高く、現実的ではありません。

銀行員の場合は、同じ金融業界の保険会社や証券会社の営業職を狙うといいです。海外では、日系企業や海外在住の日本人富裕層をターゲットとした金融商品を販売する保険会社や証券会社がたくさんあります。

そのため金融知識の豊富な日本人の需要があります。例えば以下のような求人がこれに該当します。

募集があるのはシンガポールにある外資系保険会社の営業職のポジションです。「日本人顧客への保険営業」「マーケティング」「顧客のコンサルティング」といった幅広い業務に従事します。

日本の銀行での経験が活かせるポジションであり、選考においても有利に働きます。その他、日系の保険会社で営業職の求人もよく見られます。

・医療従事者なら医療コーディネーター・医療事務・医療通訳といった選択肢がある

一方で、専門資格が必要となる場合も海外転職が難しくなります、例えば、医療従事者などはどうしたらいいのでしょうか。そうしたとき、日本の免許を現地の国でそのまま使うのは難しいです。そのため、あなたの知識・経験を活かせる関連職種を探しましょう。

例えば、「医療コーディネーター」「医療事務」「医療通訳」といった選択肢があります。医療コーディネーターとは、医療スタッフと患者さんとの間に入って、患者さんが安心して医療を受けられるようサポートする職種のことです。

日本人患者の多い海外の病院では、日本人の医療コーディネーターに対する高い需要があります。例えば以下のような求人があります。

勤務先はマレーシア・クアラルンプールにある日系のクリニックです。ここで、医療コーディネーター兼医療通訳を募集しています。患者さんのサポート以外にも保険引受審査や医療通訳・医療事務にも従事します。

日本の医療機関で働いていた経験が十分活かせるポジションです。また、日本人以外の外国人患者も利用するため、英語力は必要になります。英会話・医療英語のスキルを磨くことのできるポジションです。

このようにあなたが日本で築いてきたキャリアを直接活かせなくても、関連職種であなたの知識・経験が大きな強みとなるポジションを探しましょう。

まとめ

海外転職でキャリアアップを図るには、「語学力を磨く」「外国人のマネジメント経験を積む」「現地の価値観・文化を理解する」「日本に帰国したときに通用する仕事に就く」ことが重要になります。

一方で、日本語のみしか使わない職場環境で働くと、海外転職がプラス評価にならないことがあるので注意が必要です。業務上、日本人ばかりと接する求人に応募しても問題ないですが、英語を使う環境であることはキャリアアップに必須です。

また、職種を選ぶときは日本でのポジションにこだわりすぎず、あなたの経験・知識を活かせる関連職種も含めて仕事を探しましょう。

これらのポイントに注意して、海外転職に挑めばキャリアアップが可能です。なおキャリアプランを立てる上で分からないことや不安なことがある場合は、転職エージェントの担当者に相談するといいです。あなたと一緒に、これからのキャリアについて考えてくれるでしょう。


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