通関士資格を取得したり、国内で貿易業務に携わっていたりする方の中には「海外で活躍したい」と考える人も多いのではないでしょうか。

業務上、日々英語の書類に目を通し、海外の企業と関わる機会がある人なら「海外でキャリアを積むチャンスがあるのでは?」と考えることがあると思います。

しかし、通関士の資格を直接活かして海外で働くことはできません。そもそも求人がありません。その理由については後ほど詳しく説明します。ただ、貿易業務の経験・知識を有する人なら、それを活かしたポジションに就くことは可能です。

ここでは、通関士の業務や貿易事務に携わっていた人が海外で働くにはどのような職種があり、どのように求人を探してキャリアアップを図っていけばいいのかについて解説していきます。

通関士や貿易事務のキャリアパス

貿易が盛んな日本において、通関士・貿易事務の仕事はとても重要で、常に需要があります。それでは、通関士や貿易事務の方はどのようにキャリアを築いていくのでしょうか。それぞれみていきましょう。

日本でのキャリアについて理解しないと、海外でどのように活躍すればいいのか理解できません。そこで、まずは通関士のキャリアパスについて確認していきます。

・通関業者

通関士の資格取得後、まず通関業者に就職するのが一般的です。通関業者は商品の輸出や輸入に必要な税関手続きを企業から依頼されて代行する機関のことです。

・企業勤務

大手メーカーや物流会社、商社では通関業者を通さずに自社で通関士を雇う企業があります。このような企業勤務の通関士になるには長年の経験・幅広い専門知識が求められるケースが多いです。

企業勤務の通関士の場合、物流企画部や経営企画部に異動してキャリアアップすることも可能です。

・貿易コンサルタント

通関士としての十分な経験・ノウハウを活かせば貿易コンサルタントとして活躍することも可能です。コンサルティング会社に転職できれば、大幅な年収アップが期待できます。例えば以下のような求人がこれに該当します。

通関士の資格が必須のコンサルタント職です。日系企業の貿易に関するコンサルを担当します。具体的には、EPA(経済連携協定)・FTA(自由貿易協定)活用方法のアドバイスや教育、法令を守るための組織体制構築のコンサルティングに従事します。

応募資格は「大卒以上」「通関士の資格」です。年収は600~800万円と高額ですが、月の残業時間は平均29.6時間とハードワークではありません。

ちなみに、EPAもFTAも貿易の自由化・円滑化を進める協定です。2019年2月に日本とEUの間でEPAが発効となり、両国90%以上の関税が撤廃されました。それに伴い日本ではワインやチーズなどの価格が下がり、ヨーロッパでは日本の緑茶が安く手に入るようになりました。

このような政治や経済の動きにより、貿易コンサルタントの活躍の場は広がるのです。

貿易事務のキャリアパス

続いて貿易事務の場合は、通関士よりも仕事の幅が広いためキャリアパスの選択肢も広がります。貿易事務では、メーカーや商社で働くほか、国際物流企業(海運会社・航空会社・倉庫会社)や通関士と同様に通関業者で働くこともできます。

また、貿易事務だけでなく、営業のサポートに従事することもあるので貿易会社や国際物流会社の営業職に転職することも可能です。海外転職して国際経験を積めば、さらに職種の幅が広がるでしょう。

一方、通関業者で働く場合、多くの貿易事務の方は通関士の資格を取得します。これもキャリアアップの一つです。

ただし次に詳しく述べる通り、貿易事務として海外で経験を積みたいのであれば通関士の資格は直接役には立ちません。そのため貿易事務として海外でキャリア築く場合は通関士の資格を取るより、そのまま海外転職することをおすすめします。

英語が得意な通関士でも海外勤務の求人は無い

ただ残念ながら、通関士の資格を直接活かして海外で働くことはできません。まず、通関士は日本の国家資格です。海外で通関士として働くにはその国の制度に基づき資格を取得したり研修を受けたりする必要があります。

したがって海外で通関士として働きたいのであれば、現地の資格を取得しましょう。実際にカナダやオーストラリアなどでは現地の通関士資格を取得して働いている日本人がいます。

国によっては通関士が不足しているところもあるので、通関士の資格さえ取得すれば就労ビザを含めて仕事探しには困らないメリットがあります。

ただし、通関士の資格は簡単に取れるわけではありません。その国の言語を習得し、試験を受けなければならないのでお金と時間がかかります。

海外移住や永住を考えているのであれば、学校に通い通関士の資格を取得するのもいいでしょう。しかし、そこまでのコストと時間をかけなくても通関士の知識・経験を活かして海外転職することは可能です。

また、通関士の仕事は「通関手続きに必要な書類の作成」「法令を守っているかどうかの確認」「関税・消費税の確認」なので、全てデスクワークで解決します。海外とのやり取りが多かったとしても、わざわざ社員を海外へ赴任させる必要はありません。

そこで通関士としてグローバルな環境で働きたいのであれば、求人を選ばなければいけません。例えば、以下のような空港勤務の通関士に応募しましょう。

世界トップクラスの物流企業から出された募集です。仕事内容は通関手続き書類作成、税関への申告業務、貨物検査の立ち会い、お客さんや税関とのコミュニケーションです。勤務地は海外ではありませんが、関西国際空港内です。

こちらの求人では通関士の資格が必須となります。ただ、実務未経験やブランクがあっても問題ありません。

また、正社員としての採用予定であり、年収は未経験者で470万円程度、経験者だと年収510万円が提示されています。通関士としてインターナショナルに活躍でき、給与面での待遇にも恵まれているといえます。

このように「通関士の資格を直接活かして国際経験を積みたい」という方は海外勤務を考えるのではなく、空港などグローバルな環境で働ける国内勤務の求人を探すことをおすすめします。

貿易の知識・貿易事務の経験を活かした海外転職の求人を紹介

ただ、通関士という資格自体は活かすことができなくても、貿易に関する実務を活用して海外求人へ転職することは可能です。

そうしたとき、国内で通関士や貿易事務として働いた経験を活かして海外転職する場合、どのような求人があるのでしょうか。これについては、一般的には貿易事務のポジションに就くことになります。

例えば以下はシンガポールで募集されている貿易事務の求人票です。

大手日系商社の子会社で貿易事務に従事します。具体的には日本拠点とのコーディネーション、商品発注受注や見積もり作成、顧客への出荷、問い合わせ対応、営業サポートなどです。

必須要件は「2~3年の貿易事務」「日本語・英語でのコミュニケーション能力」「オフィスソフト(Word、Excel、PowerPoint)が使える」「貿易実務の基礎知識」です。

貿易事務や通関業務に従事している方であれば、これらの要件は満たせるでしょう。特に貿易実務の基礎知識に関しては十分持っているはずです。

貿易事務より幅広い仕事を担当する営業事務の求人

貿易事務だけではなく、営業サポートにも携われる求人が存在します。例えば以下のような求人がこれに該当します。

勤務地はインドのグルガオンです。仕事内容は「日本本社とのやり取りや書類作成などのセールスコーディネート」「安全保障貿易管理(国の法令を守って輸出管理を行うこと)」「スタッフのマネジメントなどローカル業務指導」です。

必須条件は「日常会話レベルの英語力」「丁寧に業務を遂行できること」「バックオフィス業務経験」です。それに加えて、輸出入事務経験があると優遇されるので、通関士や貿易事務としての経験は評価されます。

このようなポジションに就くと、貿易関連以外にもマネジメントや営業に携われるので、この後のキャリアの選択肢が広がります。

アセアン物流設立プロジェクトの立ち上げに関われる貿易事務

ただ、通関士として最前線で働いている人や貿易事務として既に十分な知識を持っている方にとって、海外での貿易事務では物足りなく感じるかもしれません。「せっかく海外で働くなら、貿易事務に留まらずワールドワイドに活躍したい!」という方もいるでしょう。

そうした場合、新規プロジェクトの立ち上げに関わってみても面白いです。例えば、以下のような求人がおすすめです。

勤務地はカンボジアのプノンペンです。アセアン物流プロジェクトに参加して、各拠点を回り物流の仕組みをつくり基礎構築を行います。

具体的には、「輸出入管理業務全般」「お客さんの問い合わせ対応」「倉庫やトラック、船の手配と管理」「物流進捗状況全般」「輸出入書類チェック、請求書発行など」「ローカルスタッフの労務管理」を担当します。

必須条件は「物流会社での勤務経験3年以上」「4年制大学卒業」「日常会話レベル以上の英語力」の3つです。さらに「物流業界での経験が長い」「貿易実務に詳しい」という方は歓迎条件に挙がっているので、通関士の資格や貿易事務の経験、物流業界でのキャリアがあれば選考は有利です。

このような仕事に就けば、通関士・貿易事務としての枠を超えたグローバルな活躍ができるでしょう。

高収入を目指すなら、物流会社に転職して海外駐在を狙う

なお通関士・貿易事務としてのキャリアアップに加えて、収入アップを目指すのであれば物流会社の駐在員候補として転職するのがおすすめです。

この場合、いきなり海外勤務にはなりません。ただ適性が認められたり、海外のポジションに空きができたりしたときに海外赴任できるチャンスがあります。

例えば以下は常に高収入ランキングでトップに挙がる、キーエンスが募集している生産関連事務の求人です。

勤務地は新大阪ですが、海外出張や海外現地法人への駐在の可能性があるポジションです。

仕事内容は、「国際物流業務全般(輸出入関連業務)」「海外現地法人の適正在庫管理や物流業務のサポート」「物流効率化・改善業務」の3つです。

応募必須条件は「輸出入、貿易関連業務経験があり豊富な知識を有する」「ビジネスレベルの英語力」です。「海外の輸出入規制や税制等に知識がある方は歓迎」との記載があるので、通関士の資格・貿易事務の経験は大きなアピール材料になります。

具体的な年収は提示されていませんが、キーエンスの平均年収は2,000万円以上といわれています。駐在員であればさらに諸々の手当てがつくので、満足のいく年収を得られるでしょう。

キーエンスは特に給料が高いですが、他の物流会社であっても駐在員として海外赴任すれば、日本での年収よりも大幅に上がります。

まとめ

通関士は日本国内でしか使えない資格ですが、ここまで紹介した通り海外で働く場合も知識と経験を活かして貿易事務としてグローバルに活躍することは可能です。

このとき、日本国内で通関士や貿易事務として長年のキャリアがある方からすれば「海外転職するなら貿易事務に留まりたくない」と物足りなく感じるかもしれません。ただ先に紹介した通り、営業サポートや新規プロジェクトの立ち上げに関わるなど貿易事務の枠を超えた海外求人も存在します。

ただし注意しなければならないのは、現地採用の貿易事務の場合、給与面で満足できないことがあげられます。あなたが転職において給与アップを重視するのであれば、貿易コンサルタントや物流会社の駐在員候補のポジションに転職しても問題ありません。

このとき、まずは複数の転職サイトに登録して、あなたの通関士・貿易事務としての知識やキャリアが活かせそうな求人を紹介してもらうといいでしょう。そこから具体的なキャリアパスを描いてみるといいです。


海外転職を実現するときであっても、転職サイトを利用するのが一般的です。日本に居ながら転職活動をするのが普通なのです(海外在住者も同じく転職サイトを使い、現地で活動する)。

ただ、海外転職に対応している転職エージェントは少ないです。日本にある転職サイトはほとんどが国内求人のみに対応しているからです。ただ探せば、問題なく海外求人に対応している転職サイトを利用することができます。

しかし、海外求人はそれ自体がレアです。また、「アジアに特化している」「専門性の高い求人ばかり保有している」など、転職サイトごとに特徴があります。そこで、2~3社の転職エージェントを利用して、見比べながら求人を探さなければいけません。

人によって狙っている国や求人は異なります。そこである程度まで求人の条件を絞って転職活動をしましょう。そのために必要な「海外対応の転職サイト」の特徴や違いについて、以下で記しています。