原子力・電力関連会社で、ある程度のキャリアがあれば、「海外でも活躍できるのではないか」と同じ業界での海外転職活動を始める人がいると思います。しかし、残念ながら海外求人はほとんど存在しません。なぜなら原子力発電自体の需要が世界的に減少傾向にあるからです。

求人があるのは、海外の原子力動向について調査するコンサルティング業務が中心です。英語力を活かしたり、海外出張に赴いたりはできますが、海外勤務ではありません。

一方で、風力・太陽光・バイオマス発電といった再生可能エネルギーに関わる分野であれば、海外と携われる求人が存在します。海外赴任のチャンスもありますが、海外出張ベースとなります。

また、電気系会社の技術職といったポジションであれば、あらかじめ赴任国が決まった求人が多いです。

このように海外転職を考えたとき、世界情勢を考慮した上で就職先の候補を探していく必要があるのです。ここでは、原子力・電力関連企業で経験を積み海外転職を検討している人のために、転職先の選択肢を紹介していきます。

原子力関連の海外転職は現実的でない

例えば海外の原子力プラントへ転職を希望していたとしても、求人はほとんどありません。近年、再生可能エネルギー(風力・太陽光発電など)の普及が広がり、そもそも原子力発電自体の需要が世界的に減ってきているからです。

募集が見つかるのは以下のような求人です。

原子力発電所を含めた施設・工場などの電気設備工事を行う企業です。応募段階で勤務地は決まっていませんが、シンガポール・台湾・ミャンマー・インドネシア・タイ・ベトナムなどの海外拠点での勤務となります。

新設や改修など幅広い工事に携わり、応募必須条件は「電気工事施工管理技士1級」「施工管理の経験」などです。専門資格が必須であり、赴任国は分からず、また原子力発電所の工事を担当できるとは限りません。

そのため、原子力分野にこだわるのであればこのような求人に応募するのはおすすめできません。

海外のエネルギー調査に関わる研究職のポジションなら求人がある

なお海外勤務にこだわらなければ、原子力や電力関連の知識・技術を活かして海外と関わりながら、仕事ができる職種があります。例えば、原子力調査の研究員などです。エネルギーや環境分野を専門とするコンサルティング会社で求人があります。

調査に関する実務・コンサルティング業が未経験であっても応募可能です。例えば、以下のような求人がこれに該当します。

勤務先は東京都にある原子力を中心とした海外のエネルギー・環境関連動向の調査・分析・情報提供を行うコンサルティング会社です。ここで調査研究職のポジションを募集しています。原子力関連分野での業務経験や専門知識を活かした転職が可能です。

業務内容は、海外の原子力関連の情報をインターネットや文献、海外コンサル会社、海外出張を通して収集することです。政府から依頼を受けて国の政策決定に関わる重要な情報を提供することもある、やりがいのある仕事といえます。

応募必要条件は「日本語文章力」「英語の読解力(TOEIC750点相当以上)」があることです。日本語の文章力は報告書を作成する際に必要になります。また英語については会話力よりも、英語の文献を読んだり、インターネットで海外の情報を収集したりする必要があるので読解力が重視されます。つまり、「英語が苦手」という場合でも英文を読み正しく理解できれば問題ありません。

海外勤務ではありませんが、海外出張に赴いたり、欧米コンサルタントとのやり取りを通したりしてグローバルに活躍することが可能です。

「論理的に文章を書くことが得意」「英文を読むことが好き」という人は、このようなコンサルティング会社での求人を探すといいです。ちなみにコンサルティング業界で経験を積めば、その後の年収アップ(高収入)・キャリアアップが容易になります。

再生可能エネルギーの電力会社で海外出張狙いが一般的

一方で再生可能エネルギー分野であれば、国際的に活躍できる求人が存在します。ただこの場合、海外で働くわけではありません。海外赴任のチャンスはあるものの、国内勤務ベースで海外出張に赴くスタイルが一般的です。

例えば以下のような求人がこれに該当します。

日本の大手商社と東京電力の共同出資企業であり、風力発電を中心に太陽光発電も手掛けるリーディングカンパニーです。ここで、「洋上風力発電所の開発担当」を募集しています。

勤務先は東京ですが、月に2~3回の海外を含めた出張があります。また、将来的に海外拠点(アメリカ・オランダ・オーストラリア)へ赴任のチャンスもあります。電力会社でグローバルな活躍を希望するのであれば、このような求人を狙うのが現実的です。

参考までに私はオランダに住んでいますが、日系企業の風力発電部門の駐在員の知り合いが数名います。なぜ日系企業がオランダで風力発電の事業を進めているのか尋ねたことがあるのですが、「日本は風力発電事業に関して遅れており、オランダで新たなビジネスのノウハウを吸収することが大きな目的」と話していました。

なお、中には「アジア勤務の求人は無いのか」と疑問に思う人もいると思います。一般的に海外求人の多くは東南アジアに集中しており、「風力発電関係の仕事も見つかるのでは?」と期待しますが、実際にはほとんどありません。

なぜなら風力発電・太陽光発電などのクリーンエネルギー分野は欧米が進んでおり、前述の通り日本は遅れをとっているためです。またアジアで風力発電・太陽光発電エネルギーのインフラ輸出をするほど日本は進んでいないため、それに関連する求人もないのです。

バイオマス発電で海外出張を伴うポジション

地球環境に対して負荷が少ない自然界エネルギーは風力・太陽光発電だけではありません。動物や植物から生まれた生物資源を燃焼し、ガス化してエネルギーを生み出す「バイオマス発電」も再生可能エネルギーとして世界中で導入が進んでいます。

ただ、バイオマス発電に関しても国内勤務がメインです。海外出張を通して海外と携わることができます。例えば以下のような求人がこれに該当します。

日本の上場グループ企業でプラントエンジニアを募集しています。勤務先は東京・神奈川・海外のいずれかです。国内勤務の場合も海外出張は必須です。

業務内容はエネルギー関連事業の計画を立てたり、バイオマス発電プラントの管理をしたりします。具体的にはミャンマーにて、もみ殻を燃料として発電施設をつくり電力を販売する事業などを手掛けています。

また、年収は500~950万円との提示があります。再生可能エネルギー関連のこのようなポジションは比較的高給であり、年収アップも目指せます。

このように普及の広がる再生可能エネルギー分野であれば、原子力関連よりもグローバルに活躍できる求人を見つけられます。

電気関連会社であれば海外求人が見つかる

なお、ここまで紹介してきた通り電力会社の場合だと、多くの求人において海外出張ベースであり、海外勤務の求人を見つけるのは難しいです。一方で、電気関連分野であれば海外求人が見つかります。

日本で電力・電気に関わる専門的な技術・経験があれば、海外で電気系エンジニアを狙う選択肢があります。電力エネルギー開発はスケールが大きく、インフラを整えるという大きな社会貢献ができる仕事ですが、電気関連会社の場合だとモノづくりに携わることも可能です。

例えば以下のような求人がこれに該当します。

勤務国はインドネシアです。鉛蓄電池の開発業務の担当を募集しています。この求人へは「電気系エンジニアの経験」「ビジネスレベルの英語力」があれば応募可能です。

電力会社の技術職として経験があり、さらに英語が得意な人は、このような電気分野で専門的な仕事に就くことができます。

一方で、ビジネスレベルの英語力がなくても「セールスエンジニア」として活躍する道があります。

勤務国はタイ・バンコクです。セールスエンジニアとして品質保証と技術面から営業で働く人をサポートします。専門的な対応をするため営業担当と共に商談に同席し、ASEAN各国の営業サポートを行います。タイを含め様々な国で活躍できるポジションです。

エネルギー関係の技術職で働いていた人なら、品質管理の経験者として申し込み可能です。またこの求人であれば「日常会話レベルの英語力」で応募可能であり、中学英語レベルの能力で申し込みできます。

セールスエンジニアなので現場仕事ではありません。ただ電力分野での知識と経験を活かして、こうした活躍の方法もあります。いずれにしても電気関連会社の海外求人を探せば、入社後すぐに海外で働くことができます。赴任国もあらかじめ決まっているので、ミスマッチを防げます。

まとめ

原子力・電力関連企業でキャリアを積み、海外転職を希望しているのであれば、今後も需要が伸びていくことが予想される再生可能エネルギー分野への転職がおすすめです。ただその場合、欧米などへの海外赴任のチャンスがあるものの、基本的には国内勤務で海外出張ベースという働き方になります。

また「これまでの経験や英語力を直接活かしたい」という場合は、原子力を含むエネルギー分野の専門コンサルティング会社に転職するという選択肢があります。この場合も国内勤務で、海外出張のあるポジションを見つけることが可能です。

一方で、海外出張ではなく、海外で働きたいという場合、勤務国があらかじめ決まっている電気メーカーで技術職関連の求人を探すといいです。アジアを中心に様々な海外求人が存在します。

「求人数が極端に少ない」「今後市場が縮小していく」という職種・業種を狙っても転職活動は上手くいきません。需要があり、今後も成長が見込める分野にターゲットを絞りましょう。

ここで紹介したような求人を探すために、まずは複数の海外転職サイトに登録しましょう。そうして転職活動の軸を定めて進めていけば、転職に成功しやすくなります。


海外転職を実現するときであっても、転職サイトを利用するのが一般的です。日本に居ながら転職活動をするのが普通なのです(海外在住者も同じく転職サイトを使い、現地で活動する)。

ただ、海外転職に対応している転職エージェントは少ないです。日本にある転職サイトはほとんどが国内求人のみに対応しているからです。ただ探せば、問題なく海外求人に対応している転職サイトを利用することができます。

しかし、海外求人はそれ自体がレアです。また、「アジアに特化している」「専門性の高い求人ばかり保有している」など、転職サイトごとに特徴があります。そこで、2~3社の転職エージェントを利用して、見比べながら求人を探さなければいけません。

人によって狙っている国や求人は異なります。そこである程度まで求人の条件を絞って転職活動をしましょう。そのために必要な「海外対応の転職サイト」の特徴や違いについて、以下で記しています。