美容師ほど海外で役に立つ資格はないといえます。例えば、医師・看護師・薬剤師など医療関係の資格を保持していても、海外ではあまり役に立ちません。もちろん海外で日本の医療関連免許がそのまま使える国も存在しますが、ほとんどの場合は免許を取り直す必要があります。

一方で美容師の場合は、基本的にそのまま資格を使って海外ですぐに働くことが可能です。しかも求人はかなり豊富に存在し、自分で行きたい国を選べる状況です。就労ビザの取得も他の職種に比べて簡単といわれています。

実際に私が暮らしているオランダでも、多くの日本人美容師が活躍しています。語学や文化の違いなど海外で働く上で難しい面もありますが、私が知っている美容師さんはみな「日本よりも働きやすい」と口を揃えていいます。

「海外で自分の腕を試してみたい」「日本のヘアサロンの過酷な労働環境に疲れた」という方は、ぜひ海外転職に挑戦することをおすすめします。

ここでは海外と日本の美容室の違いから、海外転職する上で気をつけるべきポイント、実際にどのような国で求人があるのかまで詳しく紹介していきます。

海外の美容室で体験した色々な衝撃

まずは海外と日本の美容室の違いについて触れたいと思います。私はいつも日本人が経営する日系サロンに通っているのですが、一度だけオランダの美容室でカットとカラーをしてもらったことがあります。

このとき興味本位で現地のヘアサロンに行ってみると様々な衝撃を受けました。以下で、実際の体験について記していきます。

ハイライトの技術は日本より高いが、カットは下手

私が現地のヘアサロンに行ってみたかったのは、「ハイライトをしてもらいたい」と思ったからです。日本でハイライトは一般的なヘアカラーの方法ではありません。しかし、欧米など白人はむしろハイライトしかしません。

その理由は、もともと髪の毛の色にムラがあるため、ハイライトによって色ムラをカモフラージュできるからです。オランダ人の美容師さんは、「単一カラーを依頼する日本のようなお客さんはほとんどいない」と話していました。

「ハイライトカラーが主流であれば現地サロンの方が上手いに違いない!」と期待したのです。確かに、とてもきれいにハイライトカラーを入れてくれたのですが、私がオーダーしたカラーよりも随分トーンの明るいカラーに仕上がりました。日本であれば、とても会社には行けないレベルの明るい色です。

オランダ人の美容師さんは「きれいな仕上がりだけど思ったよりも明るくなったわね」と言っていました。やはりアジア人の髪質に慣れていないため、色の入り方が分からないようでした。

一方で、カットの技術は信じられないくらい下手です。定規で合わせたように真っ直ぐに切られて終わりでした。髪をすいたりすることはあまりしないようです。

白人の毛は猫毛が多く、ボリュームを抑える必要がありません。また明るい髪色の人がほとんどなので、髪の毛をすかなくても重たい印象にはならないのです。

オランダの現地ヘアサロンに行って初めて、「日本人の美容師さんのカット技術は世界的にみても高い」「日本人のヘアカラーは髪質をよく理解している日本人に任せるべき」だと思いました。

ちなみに以下の写真はオランダで全国展開している美容室です。

どこの街でも見かけるチェーン店でかなり安い料金設定ですが、一度訪れた友人があまりの技術の低さに驚いていました。

国によっては美容師は女性の仕事であり、男性美容師はゲイ

また私が現地で訪れた美容室だと、全員が女性の美容師さんでした。オランダでは美容師は女性の仕事であり、男性の場合は、「ほぼ間違いなくゲイ」だと教えてくれました。

確かにオランダに有名な床屋があるのですが、スタッフ全員がマッチョの男性美容師で、もれなくゲイだと聞いたことがあります。しかも女性禁制のサロンで有名です。

したがって日本人の男性美容師がオランダのような国で働くと、現地の人には恐らくゲイだと思われてしまうでしょう。

もちろん、これはヨーロッパ特有の事情(特にオランダ)であるため、アジアなど他の国では異なります。ただいずれにしても、こうした国ごとの特徴があることは理解しましょう。

日本の美容室に疲れた方にとって、海外は働きやすい場所

また海外転職を考えている美容師さんの中には、日本の美容室の過酷労働に疲れて働きやすい場所を求めている方もいるでしょう。

確かに日本の美容師業はハードワークで有名です。朝から晩まで立ちっぱなしで施術や接客を行い、営業時間外には練習やミーティングを行います。拘束時間が長い上、休みも少ない過酷な環境で働かなければなりません。こうした日本での美容室の労働環境に疲れた方も多いでしょう。

一方で、海外で働いている日本人の美容師さんは私が知っている限り、のびのびと働いている印象を受けます。「日系のヘアサロンであれば、世界中どこでもハードワークを強いられるのでは?」と思う方もいるかもしれませんが、それは違います。

海外で暮らしている日本人は、日系サロンに対して「日本と同じような高いサービス」は期待していません。実際に私が通っている日系サロンの担当美容師さんも私の予約を忘れていたり、当日になって「時間を変更して欲しい」とお願いしてきたりしたことは何度もあります。

日本の場合、このようなことが起きるとクレームを生じる可能性があります。ただ、海外ではこのようなケースは日常茶飯事なので、いちいちクレームする日本人は少ないです。

また労働環境についても、日本のような長時間労働を強いられることはありません。例えば以下では完全週休2日制に加えて年間24日の有給が支給されるヘアサロンでスタイリストを募集しています。

勤務地はドイツのデュッセルドルフです。仕事はカット・カラーがメインです。その他、ヘアセットやエクステ、ヘッドスパなどの施術も行います。

営業時間は平日と土曜の9:30~20:15ですがこの中の40時間働けば良く、残業はありません。日本のヘアサロンと比べると、かなり仕事の負担が少ないといえます。

応募必須資格は「美容師免許を保持している」「英語またはドイツ語でコミュニケーションができる」ことです。ここで、「ドイツで暮らすのであればドイツ語が必須なのでは?」と考える方もいるかもしれませんが、デュッセルドルフに限っては英語のみで十分暮らしていけます。

それどころかデュッセルドルフに駐在している私の友人は「日本語だけでも十分生活していける」と語っていました。

デュッセルドルフは世界でも有数の日本人街があり、5,000人ほどの日本人が暮らしています。居酒屋・ラーメン・日本のパン屋・本屋などが並び「海外生活が不安」という方でも不自由なく生活していけます。

また、デュッセルドルフには多くの親日家が集まっており、実際に私も日本語を話す外国人を何人も目にしました。したがって多少の英語を使って仕事ができれば、ドイツ語が話せなくても生活していけるのです。

さらに海外だと、繁忙期以外であれば有給が取りやすい環境が用意されているので、ヨーロッパ旅行を満喫することも可能です。ヨーロッパはLCC航空会社が広く普及しており、週末や3連休などを活用して格安にヨーロッパを周ることができます。

なお、月給は20~30万円との提示があります。歩合制ですが最低20万円は保障されています。また、社会保険や医療保険も完備されているので安心です。

このような美容室に海外転職できたら、ライフワークバランスの取れた生活が実現できます。

フリーランスという働き方を選択することも可能

また美容師であれば一つの会社に所属せずに、フリーランスとして契約して複数店舗に勤務する働き方も可能です。

例えば私が行きつけの日系サロンの美容師さんは、オランダの現地サロンと日系の美容室を2店舗掛け持ちして働いています。日系サロンのみではお客さんが日本人中心になるので、勉強のために現地の美容室でも働いているそうです。

彼女はオランダ語を話せませんが、「英語でコミュニケーションが取れれば問題ない」と語っていました。また、英語についても美容室で使うフレーズは限られているので、たとえ英語が苦手であったとしても最低限の会話をするのはそこまで難しくないそうです。

フリーランス契約で働く場合、自分の好きなときに自由に休みを取ることができるのが大きな魅力となります。実際にその美容師さんは年に1ヶ月以上、長期休暇を取得して日本に帰省しています。

海外転職のデメリットは日本になかなか帰省できないことが挙げられますが、このように勤務スタイルを選べると生活の自由度は上がります。また、海外旅行に行くなど時間をゆっくり持つこともできます。日本の美容室で働いていると、このような自由はありません。

例えばヨーロッパの美容室では以下のような求人を見つけることができます。

ただフリーランスの場合、働いていない期間の給与は保障されません。したがって1ヶ月休暇を取る場合、有給ではないので生活費を切り崩さなければなりません。

さらに美容室との契約内容にもよりますが、出勤がゼロの月であってもサロンに自分のスペース代(間借り:家賃のようなもの)を納める必要があるため、収入はゼロどころかマイナスになることもあります。

フリーランスは自由度の高い働き方が実現できる一方で、不安定な面もあります。メリット・デメリットを十分に考慮した上で選択することをおすすめします。

ちなみに、海外にある日系サロンでも業務委託契約(フリーランスの働き方の一つ)を結ぶ日本人の美容師を募集しています。例えば以下のような求人です。

勤務地はイギリス・ロンドンです。正社員雇用と業務委託から選ぶことができます。業務委託の場合は、あなたの働き方に合わせることができます。

応募資格は「美容師免許取得者」「取得予定者」のいずれかです。何年以上といった経験は問われません。このような業務委託で働けば、他のお店での副業も可能です。

海外で自分のヘアサロンをいきなり持つのは難しい

なお、海外渡航を考えている美容師さんの中には「自分のサロンを海外でオープンさせたい」と考える方もいます。しかしいきなり店を持つのはハードルがかなり高いです。

美容師の資格を保持していれば就労ビザの取得は大きな問題にはなりませんが、新しくお店を開くとなると役所の許可が必要になります。現地のヘアサロンのお客を奪う可能性があるので、役所は許可を与えるのに慎重になるのです。

実際に「ヘアサロンをオープンさせようと思って海外渡航したものの、許可が下りず諦めた」という日本人美容師の話は多いです。

見知らぬ土地で、いきなりお店を持つのはリスクが大きいです。したがって、まずはヘアサロンに就職することを考え、将来的にお店を持つ計画を立てるといいです。

また、求人を探すときは「独立支援をしている美容室」を探すと海外でサロンオープンのノウハウを伝授してもらえます。

一方で、社員の独立を良く思わないオーナーもいます。実際に私の知り合いの美容師さんは海外の美容室で働いていましたが、独立したい希望を伝えた途端、オーナーや周りのスタッフから嫌がらせ行為を受けるようになったと話していました。

このようなトラブルに巻き込まれたくない方は、最初から独立を応援してくれるサロンに応募した方が無難といえます。例えば以下のような求人がこれに該当します。

勤務地はシンガポールです。シンガポールは国際都市なのでアジア人だけでなく、その他の人種のヘア施術を行えます。こちらの美容室のスタイリストは全員日本人ですが、顧客の半数は外国人です。

そのため選考において英語力は問われませんが、渡航後にある程度の英語力が必要になってきます。ただ、シンガポールは「シングリッシュ」と呼ばれるくらい、独特の英語を話します。むしろ英語圏での英会話に慣れている人は逆に聞き取りにくかったり理解できなかったりする可能性があります。

シングリッシュは英語を短縮して、マレーシア語や中国語の訛りをミックスさせた独特の英語の方言です。英語が苦手な日本人にとっては、シングリッシュの方が簡単だといえます。

もちろん、きちんとした英会話の練習をしてもいいですが、シングリッシュの勉強をする方がスムーズともいえます。英語力に自信のない方はシンガポールやフィリピン、マレーシアなど英語を母国語としない国で経験を積むといいです。

また、こちらの求人には「求める人物像」の欄に「将来海外での独立や開業を目指している方」との記載があります。このようなサロンで経験を積んで資金を貯めると良いです。

業務内容はヘアカットなど基本的な業務以外にもヘアメイク・着付け・ヘッドスパ・ヘアセットなどに従事します。また、マーケティングの部署もあり、美容室経営について学ぶことも可能です。

月給は歩合にもよりますが25~80万円との提示があります。応募必須資格は「美容師免許保持」「スタイリスト歴2年以上」です。

このように開業を希望している方は、まず海外転職してその国で戦略を練ってから独立することをおすすめします。

日本で美容師としての経験・技術があれば働きたい国を自由に選べる

特別な資格・スキルを保持せずに海外で求人を探しても、求人のあるエリアは限られています。例えば営業職や事務職はアジア圏に求人が集中しています。一方で美容師についてもタイ・マレーシア・シンガポールなどアジア諸国の求人が多いのは確かですが、欧米諸国や南国での求人も豊富に存在します。

現地で暮らす日本人はもちろん、外国人も日本の美容師のレベルが高いことは知っています。実際に私が海外で通っている日系ヘアサロンは常に予約でいっぱいです。特に、日本人以外のアジア人(中国人や韓国人など)から高い支持を得ています。

日本の美容師の技術は世界で十分通用するといえます。そのため世界中で需要があるのです。例えば以下であれば、ほとんど求人を見かけないオーストラリアで募集があります。

勤務地は世界で最も住みやすい都市として選ばれるオーストラリア・メルボルンです。オーストラリアには世界中から多くの移住希望者が押し寄せるため、就労ビザ・滞在ビザの取得は非常に難しいといわれています。

そのようなメルボルンに存在する日系ヘアサロンで、マネージャーのポジションの求人があります。「カット・カラー・トリートメント・縮毛矯正などの施術からサロン運営・売上管理・受付・通訳」など、美容師業からマネジメントに至るまで幅広い業務に従事します。

顧客の6割が外国人なので英語は必須です。語学学校に通う場合はその費用をサロンがサポートしてくれます。また、給与は歩合制で25~60万円以上との提示があります。さらにオーストラリアの年金制度も完備されています。

このように語学力や日本での経験・スキルがあれば、行きたい国で働くことが可能です。

まとめ

「美容師としてグローバルに活躍したい」「ライフワークバランスの取れた環境で働きたい」「海外で暮らしてみたい」という方は、迷わず海外転職にチャレンジしてみることをおすすめします。美容師としての経験・技術があれば世界どこでも働き口が見つかります。

また「英語が苦手」という方は英語圏ではなく、シンガポールやフィリピン、香港、マレーシアなど公用語で英語が話されているアジア圏の国に転職するのが賢明です。このような国々では完璧な英語は求められず、「通じたらいい」というスタンスなので英語のハードルが低いです。

一方で「自分のサロンをオープンさせたい」という方は、いきなり出店するのは控えて、ひとまず現地の美容室で雇用してもらうといいです。このとき独立支援を行っている美容室で求人を探すようにしましょう。そうすれば働きながら開業ノウハウを伝授してくれます。

このように美容師免許を持っていれば転職先の選択肢は豊富にあります。あなたが何を重視するのかが大切なポイントです。まずは複数の転職サイトをチェックして求人の候補を挙げてみるといいです。海外転職を実現させてグローバルな美容師を目指しましょう。


海外転職を実現するときであっても、転職サイトを利用するのが一般的です。日本に居ながら転職活動をするのが普通なのです(海外在住者も同じく転職サイトを使い、現地で活動する)。

ただ、海外転職に対応している転職エージェントは少ないです。日本にある転職サイトはほとんどが国内求人のみに対応しているからです。ただ探せば、問題なく海外求人に対応している転職サイトを利用することができます。

しかし、海外求人はそれ自体がレアです。また、「アジアに特化している」「専門性の高い求人ばかり保有している」など、転職サイトごとに特徴があります。そこで、2~3社の転職エージェントを利用して、見比べながら求人を探さなければいけません。

人によって狙っている国や求人は異なります。そこである程度まで求人の条件を絞って転職活動をしましょう。そのために必要な「海外対応の転職サイト」の特徴や違いについて、以下で記しています。