海外転職を考えたとき、大きく「現地採用」と「駐在員」の2つのポジションがあります。駐在員の求人数は現地採用に比べると少ないので、海外転職では多くの人が現地採用を中心に応募することになります。
現地採用の場合、英語が得意でなくても応募できたり、未経験あるいはキャリアが浅くても就ける求人があったりなどとチャンスが多いです。中には将来的に駐在員ポジションに切り替えてもらうことを狙って、現地採用で就職する人もいます。
一方で、現地採用について楽観的に捉えすぎていると、転職した後に「辞めたい」と後悔することにもつながりかねません。
ここでは現地採用での海外転職を考えている人のために、現地採用の転職事情やメリット・デメリットについて解説していきます。
もくじ
転勤を気にせず、好きなだけその国で暮らせるメリット
現地採用の最も大きなメリットは「基本的に転勤がないこと」ではないでしょうか。駐在員は任期が定められているケースが多く、期間限定の滞在です。本社からの「異動」の一言で駐在生活は終了します。
一方で、現地採用だと転勤におびえる心配はなく、あなたは好きなだけその国で働けます。しかも海外にある日系企業は、長期間働いてくれる日本人を探していることが多いです。
駐在員は定期的に入れ替わってしまうので、長期間在籍し、会社のことをよく知った日本人の現地社員は現地法人から重宝されます。例えば以下のような求人がこれに該当します。
勤務地はカンボジア・プノンペンです。ここで日本人のカスタマーサポート担当者を募集しています。
日本の企業とのやり取りや日本語での問い合わせの対応、日本語の添削など日本語を使った仕事がメインとなります。そのため社会人として正しい日本語が使えることが応募条件となっています。
また、「最低2年以上働けること」という条件があります。このような記載がある場合は長期雇用を前提としており、なるべく長く勤めてくれる日本人を探しているということです。
このような求人を探して転職すれば、現地に腰を据えて暮らしていくことが可能です。
「未経験」「英語が話せない」でも問題なく海外転職できる
また現地採用の求人は、特殊なスキルや経験・語学力が求められない案件が比較的多いです。そのため、「未経験でも英語が話せればOK」「英語がダメでも、経験があればOK」、さらには「経験・資格・語学力いずれも不問」な求人も存在します。
例えば以下のような求人がこれに該当します。
フィリピン・セブ島にて、コールセンター業務のマネージャー候補を募集しています。「語学・経験・スキルは一切不要」との記載があり、日本語のみで業務を遂行できるポジションです。
ただ、入社してからは当然ビジネススキルを習得します。さらに英会話レッスンを受けて英語力も磨いていけます。
「英語が苦手」「特別なスキルや経験がない」という人でも、現地採用に絞って探せば、語学力やスキルを身につけながら海外で働けるポジションの求人を見つけられるのです。
日本のようにハードワークを求められない
さらに海外で現地社員として働く場合、基本的に残業はなく、定時に帰るのが当たり前です。一般的に、残業する場合は上司の許可が必要となり、残業代もきちんと支払われます。
ちなみに私の友人の会社では残業が必要となった場合、会社が夕食を用意する決まりがあるそうです。好きな物をケータリングできるので、「残業になると喜ぶ現地社員もいる」と話していました。
「毎日定時で帰ってプライベートな時間を満喫したい」という人は現地採用が向いています。例えば以下のような求人があります。
マレーシア・クアラルンプールでカスタマーサポートの求人です。日本からのメールや電話対応が主な仕事です。
1日20~35件対応し、1件あたり10分程度しかかからないので就業時間内に業務が終わります。そのため求人票に「月の残業は0~5時間で原則定時退社」との記載があります。
1日実働7.5時間で週休2日制、有給休暇14日間で有給消化率100%です。現地採用でこのようなポジションに就けば、仕事に追われることなくプライベートな時間をきちんと確保でき、ライフワークバランスのとれた生活が送れます。
駐在員待遇に切り替えチャンスもある
一方で、駐在員への切り替えを目的として現地採用で転職する人も多くいます。ただし、現地採用から駐在員を狙うのは非常に難しく、まずは求人票を探す段階で「駐在員への切り替えが可能な案件」を探さなければなりません。例えば以下のような求人がこれに該当します。
タイ・チョンブリにある大手自動車部品メーカーで営業マネージャーを募集しています。営業部門を効率的に稼働させるためのマネジメント業務が主な仕事です。直接顧客と商談する機会があるため英語力は必須です。また、顧客分析・戦略立案なども重要な業務であり、メーカー向けの営業経験が求められます。
このような業務内容で営業としての高いパフォーマンスを発揮すれば、求人票にも記載がある通り「駐在員待遇への切り替えも検討可能」になります。ただ、あくまで「検討可能」ということなので、数年後に確実に駐在員待遇に切り替えてもらえるわけではありません。あなたの能力と会社側の人事のタイミング次第です。
そのため、駐在員にこだわるのであれば、初めから駐在員の求人を探すべきです。例えば以下のような求人であれば、語学能力は求められるものの、駐在員であっても特殊なスキルや経験を求められることなく挑戦しやすいです。
台湾でレストラン事業に関わる駐在員を募集しています。店舗運営業務やシフト管理・価格交渉・スタッフの教育などに従事するため、レストランでの業務経験は必須となります。
スタッフの指導や仕入れ先との価格交渉は英語あるいは中国語で行うため、「TOEIC700点以上」あるいは「ビジネスレベルの中国語」が必要となります。
ただ、これらをクリアすれば特殊なスキルや経験がなくても駐在員を目指せる求人も存在するのです。
医療保険や年金などの保障がないデメリット
一方でデメリットもあります。その一つが医療保険や年金などの保障制度です。
現地採用の場合、その国の法に基づいて現地の医療保険や年金に加入するのが一般的です。一方で駐在員だと日本の社会保険を継続したまま、現地でも医療保険に加入します。このような手配も費用も会社が負担します。
日本では国民の医療費を国が負担してくれますが、この事実は世界的な水準から考えると非常に恵まれています。海外では自分で医療保険に加入するのが一般的だからです。
国によっては毎月の医療保険代が非常に高額だったり、歯科費用は医療保険でカバーされなかったりと医療制度が大きく異なります。日本の会社では年に一度、健康診断を受けるのは当然ですが、海外では一般的ではありません。
つまり、駐在員であれば日本の規制に基づき、様々な保障で守られています。一方で現地採用だと年金や医療保険の加入など、自ら行わなければなりません。
そのため、「提示されている給与に医療保険・年金の費用が含まれているのか」といった基本的なことを含めてよく確認する必要があります。
また、給与については日本基準ではなく現地基準で額が決まっているのが一般的です。そのため物価の低い国で生活するには十分な給与であっても、日本へ一時帰国する飛行機代を捻出するのが大変になることもあります。
このような事態を避けるためにも、求人票をよく読み、また他の求人票と比較しましょう。そのため複数の海外転職サイトに登録してより多くの求人票に目を通すことをおすすめします。
例えば以下のような求人であれば、待遇や福利厚生について細かい記載があります。
メキシコにある旅行会社で法人・個人向け旅行の手配に従事するポジションです。求人票には給与額の提示だけではなく、「社会保険・高額医療保険・生命保険への加入」や引っ越し費用・家賃などの様々な補助、渡航費用の負担など細かく記載されています。
このように具体的に提示されていれば、就職してから「手元にこれだけしかお金が残らない」「現地採用はやめとけばよかった」と後悔することはなくなります。
駐在員との格差が大きい
なお、同じ会社で駐在員と一緒に働く場合、現地採用との待遇面の違いに落胆することがあります。例えば「住んでいる家が全然違う」「車が会社から支給されている」「給与が全く違う」などです。
ただ、「駐在員はサービス残業が当たり前」「無給の休日出勤を余儀なくされる」「期間限定の赴任」といった、現地社員にはない仕事の負担があります。「待遇の違いだけ駐在員はハードに働いているから仕方ない」と割り切ることも必要です。
ただ、中には現地採用であっても「高待遇」の求人があります。例えば以下のような求人がこれに該当します。
勤務先はアフリカ・マダガスカルにある日系企業の支社です。ここで本社とのやりとりなどの一般事務と、ローカルスタッフの管理などの人事総務に従事します。
福利厚生は送迎・住宅付き、海外保険付与と手厚く、長期一時帰国の休暇も取得できます。また、月給は20万円以上であり、さらにボーナスも支給されます。給与額は現地ではなく日本水準に設定されています。
このような高待遇案件ですが、応募条件は「社会人経験が5~6年」「日常会話レベルの英語力」のみです。待遇面にこだわるのであれば、このような「高待遇」をアピールした求人を探すといいです。
就労ビザを持っていることが前提の求人が多い
前述した通り、現地採用の求人数は駐在案件に比べると豊富にあるのですが、「就労ビザを保持していることが前提」の求人が多い事実に気をつけなければなりません。
特に、現地のサイトを使って直接仕事を探そうとすると、「ビザを持ってない時点で受けられる求人はほとんどない」と考えておいた方がいいです。例えば以下のような求人が大半です。
オランダにある日本の商工会議所が日本人向けに求人を紹介しています。これはその求人の一つですが、いずれの求人もこのように「オランダ就労許可及び滞在許可を有する方」の記載があります。就労・滞在ビザのいずれも保持した状態でないと応募できません。
ただ、日本国内の海外転職エージェントを使えばこの点はクリアできます。就労ビザを用意してくれることが前提となる現地採用の求人を主に扱っているからです。例えば以下のような求人がこれに該当します。
勤務先はドイツにある日本食レストランです。ここで日本食の調理を担当します。調理経験のない人でも応募できます。
ビザに関して求人票に、「労働ビザ全面サポート致しますのでご安心ください」の記載があります。
日本国内の海外転職エージェントが取り扱う求人は基本的に、ビザのサポートがある案件ばかりです。これが、海外転職で転職サイトの利用が基本になる理由です。ただ、「ワーキングホリデービザ」や「学生ビザ」を持っている人を対象とする求人もあるので気をつけましょう。
駐在員から現地採用への転職事情
なお駐在員の中には、赴任している国が気に入り、「このまま現地で暮らしたい」と考える人がいます。私もオランダで5年以上暮らしている中で、「オランダに残りたい」という駐在員を多く見てきました。しかし、そのまま残るのは非常にハードルが高くなります。
多くの駐在員がまず最初に試みるのは「いま働いている会社で駐在員から現地採用への切り替えを会社に打診すること」です。これは簡単そうに思えますが、実現は非常に難しいです。
なぜなら、日本の企業は前例を作ることを非常に嫌がります。一人認めてしまうと他の駐在員も同じことを希望した場合、認めざるを得ず、日本の本社としては優秀な人材を本社採用から現地法人に奪われてしまう形になるからです。
ただ、「現地の人と結婚した」という理由であれば、そのまま現地採用に切り替えてもらえることがあります。実際に私の友人の中にも駐在中に出会った現地の人と結婚して、同じ会社で駐在から現地社員になりました。
もちろん結婚以外の理由でも、駐在員から現地社員への切り替えを認めている企業はゼロではないので聞いてみる価値はあるでしょう。
ただ私の知り合いの駐在員たちは、会社に聞いてみたものの現地社員への切り替えが認められず、泣く泣く日本へ帰任しました。
しかし、他の会社へ現地採用で転職することは可能です。キャリアを活かして同じ業界で転職する場合、「ライバル社または顧客企業」への転職が選択肢となるでしょう。
ライバル社への転職では、あなたへ投資して海外で経験を積ませてくれた今の企業を裏切ることになるので良い選択肢とはいえません。現地に残れたとしてもひんしゅくを買ってしまい、日本人コミュニティーに入れなくなってしまうでしょう。
そこであなたのキャリアを活かし同じ業界で転職するなら、今勤めている会社の顧客企業へ転職するのが狙い目です。ちなみに実際に私の友人である駐在員は、派遣先の顧客企業でヘッドハンティングされ、現地採用として転職しました。
まずは日本の海外転職サイトを使って、顧客企業があなたの住んでいる国で求人を募集していないか探してみましょう。求人があれば受かる確率はかなり高いです。なぜなら既にその国に住み、就労経験があるため企業側として安心してあなたを採用できるからです。
余裕を持って転職活動を開始しなければ間に合わない
なお、現地で転職活動する場合は余裕を持って開始しましょう。駐在期間中はいつ辞令が出てもおかしくありません。「まだ任期があるから」とのんびり駐在生活を送っていると、あっという間に時間が経ち、内示がでてから転職活動を開始しても間に合わないことがあります。
特に、海外では選考に非常に時間がかかるケースが多く、応募から採用まで数カ月以上かかるのが一般的です。
また駐在員は会社が駐在員ビザを取得しているのが一般的なため、現地で転職活動を進めるとなると就労ビザの問題が発生します。ただ、既にその国で就労経験があり、スキルを持った人材であれば需要はあるので、ビザのスポンサーとなってくれる企業を見つけるのは日本でイチから転職活動するよりも簡単です。
参考までに、例えば私が住むオランダであれば、駐在員でも5年以上継続して就労して税金をきちんと納めていれば、5年後に自動的に就労ビザが付与されます。つまり、5年以上駐在員として勤務すれば自由に現地で転職活動が可能になるのです。
このような制度は国によって大きく異なり、きちんと調べないと分からない上、法律も頻繁に変更されます。そのため、常に最新の情報をチェックしておく必要があります。
まとめ
現地採用では、残業や休日出勤のないライフワークバランスのとれた働き方を実現できます。また英語が苦手、未経験であっても就職できるポジションは多く、理想的な仕事に就けるチャンスがあります。
一方で、待遇面では注意が必要です。給与の提示額だけで判断してはいけません。あなたが渡航しようとしている国の医療保険・社会保険制度などについて調べ、実際に手元に残るお金がどのくらいか算出しておきましょう。
さらに、求人票を見るときには「残業の有無」「社会保険・医療保険が含まれているか」「就労ビザに関する記載」などについても細かくチェックしましょう。記載が無いときには海外転職エージェントの担当者に連絡して、確認してもらうといいです。
また、海外転職では国内転職よりも選考に時間がかかるケースが多いです。海外転職を考えているのであれば、1日でも早く動き出す必要があります。
海外転職を実現するときであっても、転職サイトを利用するのが一般的です。日本に居ながら転職活動をするのが普通なのです(海外在住者も同じく転職サイトを使い、現地で活動する)。
ただ、海外転職に対応している転職エージェントは少ないです。日本にある転職サイトはほとんどが国内求人のみに対応しているからです。ただ探せば、問題なく海外求人に対応している転職サイトを利用することができます。
しかし、海外求人はそれ自体がレアです。また、「アジアに特化している」「専門性の高い求人ばかり保有している」など、転職サイトごとに特徴があります。そこで、2~3社の転職エージェントを利用して、見比べながら求人を探さなければいけません。
人によって狙っている国や求人は異なります。そこである程度まで求人の条件を絞って転職活動をしましょう。そのために必要な「海外対応の転職サイト」の特徴や違いについて、以下で記しています。