ひと昔前まで、海外の商品をネット通販で購入することは一般的ではありませんでした。しかし物流インフラが整ったおかげで、海外で注文した商品が数日後に届くことは今では珍しくありません。
またネット通販の利用者自体が増加し続けており、物流業界では人手不足が深刻化しています。そのため国内で物流業界を志望したとき、求人は豊富に存在します。そのような場合、「海外でも物流業界の求人が豊富にあるのでは?」と考える人もいるでしょう。
確かに物流業界の求人は他の業界に比べると豊富にありますが、海外の求人に関しては、現地スタッフをまとめるマネージャー職など経験や知識・スキルが求められるケースが多いです。
ただ、中には未経験から挑戦できる求人も存在します。また、高度なスキル・物流業界での長年のキャリアがあれば海外駐在のポジションを狙うことも可能です。
ここでは、海外の物流業界への転職を考えている方のために、海外の物流事情や求人のある職種の紹介、未経験から応募可能な求人、駐在のポジションまで幅広い選択肢を紹介していきます。
もくじ
海外の物流事情
物流業界の求人について紹介する前に、海外の物流事情について触れたいと思います。私は海外に住んでおり、住み始めて「日本の物流サービスは世界のスタンダードではない」ことに気づきました。
日本のサービスレベルはかなり高いです。例えば、「無料で細かい時間・日付指定ができる」「不在の場合は何度も再配達してくれる」「荷物が紛失することはほとんどない」といったサービスは海外では当たり前ではありません。
海外だと先進国であっても、時間指定や日付指定には通常プラス料金がかかります。また、再配達の依頼は難しく、指定された場所(スーパーなど)に期限内に取りに行かなければ送り主に返送されてしまいます。
さらに荷物が紛失することは日常茶飯事です。その理由として留守の場合、玄関にそのまま荷物を置いていったり近所の人に渡したりすることがあるからです。
そのまま盗まれたり、誰が預かっているのか分からなくなったりして「配送済み」となった荷物や小包は行方不明になってしまいます。実際に私自身、ヨーロッパに住んでいて荷物を送り返されたり紛失したりした経験があります。その際でも、何の保証もありません。
つまり、海外の物流業界で働く場合に、日本と同じサービスレベルを期待してはいけません。荷物が紛失したり予定通り届かなかったりと日本では起きないトラブルに巻き込まれる可能性が頻繁にあるのです。
実際に日系の物流会社の海外支店で働いている友人は「予期せぬトラブルが多くて大変」と語っていました。
海外転職では物流・ロジスティック営業の求人が豊富
それでは海外の物流業界で求人のある職種についてみてみましょう。このとき営業職には、やはり豊富な求人があります。この中で日本人の需要があるのは、日系企業に対して物流・ロジスティックの提案・営業を行うポジションです。
例えば以下の求人では、タイの国際物流会社が日本人のセールス担当者を募集しています。
勤務地はタイです。タイにある日系企業に対して国際物流サービスの営業・提案を行います。新規顧客開拓から既存顧客への物流提案やネットワーク作りなど、ローカル大手企業ならではのノウハウを活かした多岐に渡る活躍が期待できます。
応募必須条件は「ビジネスレベルの英語力」「物流経験あるいは貿易実務経験」があることです。現地の企業ですがタイ語は求められません。
月給は24.5~31.5万円(1バーツ3.5円で算出)との提示があります。また、年に2回のボーナス、タイの社会保険加入・医療保険加入、交通費補助などの福利厚生があります。物価の低いタイで暮らしていくには十分な待遇といえます。
このような現地のローカル大手企業は日本マーケットを開拓するために日本人を募集していることがあるのです。
日系メーカー向け国際物流コンサルタント営業の求人
その他、物流のコンサルティング営業をメインとしたポジションの募集もあります。例えば以下のような求人がこれに該当します。
勤務地はベトナム・ハノイです。ハノイエリアにある日系メーカーに対して国際航空輸送・海上輸送など顧客のニーズに合った最適な物流プランを提案していきます。
応募必須条件は「法人営業経験」「社内公用語が英語であるため準ビジネスレベル以上の英語力」があることです。その他、物流営業経験や貿易業務経験があると選考において有利となります。
月収は約22~25万円(1米ドル110円で算出)との提示があります。その他、社員旅行があったり、週1回の英会話レッスンを無料で受けられたりとユニークな福利厚生制度が用意されています。
ここで紹介した求人以外にも、物流・ロジスティックの営業職は比較的豊富に求人が存在します。それでは営業以外のポジションはどうなのでしょうか。
海外物流企業でマネージャーのポジション募集
物流企業での職種は営業職以外にも、スタッフをまとめたり倉庫や現場の管理をしたりするマネージャー職が存在します。マネージャーになるには、それまでの経験や知識・マネジメント能力が求められます。
例えば以下では、日系物流企業がプロダクションマネージャーを募集しています。
こちらの勤務地は、ほとんど求人を見かけないチェコです。チェコの首都プラハから電車で1時間程度の街、ピルゼンに勤務します。チェコからも通勤可能です。
仕事内容は「品質管理」「トラブル発生時の対応・解決策の実行」「スタッフの指導」「他部署との関係構築」などです。ここで、「物流会社のプロダクションとは何か」と疑問に思う方もいるでしょう。
物流会社は基本的にメーカーではないので商品開発を行うことはありません。ただ、「メーカーから商品を預かって運送し、通関業務を行って目的地まで運ぶ」という一連の物流をパッケージ化した商品を販売しています。このようなプロダクションを管理するマネージャーが必要なのです。
応募必須条件は「3年以上メーカーでの管理経験」「ビジネスレベルの英語力」があることです。給与は年俸制で約530~580万円(1チェコ・コルナ4.8円で算出)との提示があります。
なおチェコは英語が一般的に通じる国ではないので、チェコ語の無料レッスンが受けられる福利厚生が整っています。
・物流企業で倉庫管理のマネージャーポジション
また、多くの物流企業は自社で倉庫を持っており、顧客に貸し出したり荷物を一時的に保管したりしています。これについては、例えば「船に荷物を運ぶ場合、船の入港が遅れたり、船に積む荷物をまとめて一度に乗せた方がコストを抑えられるたりするため、一時的に荷物を保管する場所が必要になる」などが理由として挙げられます。
ちなみに以下の写真は、実際に港で荷物が積まれたコンテナを船から降ろす作業の様子です。
物流企業ではモノを運ぶだけではなく、モノを保管する倉庫管理の担当者が必要になります。預かった荷物を倉庫に入荷したり出荷したりする作業は現地スタッフに任せられますが、マネジメントや日系企業とのやり取りなどでは日本人が必要になってきます。そこで、以下のような求人があります。
勤務地はベトナムです。物流会社での倉庫管理責任者のポジションです。20,000㎡の大規模な倉庫を複数件管理します。具体的にはクライアントとの契約交渉や現場管理・倉庫オペレーションの総合的な管理などです。
応募必須条件は「物流倉庫や在庫管理の3年以上の経験」「100名以上のスタッフのマネジメント経験」「英語がビジネスレベル以上」あることです。
月収は33~55万円(1米ドル110円で算出)との提示があります。さらに医療保険・住宅手当・出張手当などが支給されます。
未経験からでも挑戦できる求人は存在するのか
ここまで紹介した求人は全て、経験が求められるものばかりでした。しかし、未経験から挑戦できる求人も存在します。例えば以下のような求人です。
日本の総合物流会社のタイ法人で応募可能な求人があります。ロジスティック倉庫事業部の営業担当です。こちらの企業では航空貨物輸送・海上輸送・国際トラック輸送・倉庫などというように、物流サービスをワンストップで提供できる体制が整っています。
仕事内容は「見積もり作成業務」「レポートの作成」「新規顧客開拓と既存顧客のフォロー」などです。応募必要資格は「日常会話レベル以上の英語力」「営業経験」があることです。
月収は約23~24.5万円(1バーツ3.5円で算出)との提示があります。また、年に一度のボーナスや医療保険・社会保険、さらには語学能力に応じて手当が付きます。海外で未経験から物流業界でキャリアを積んでいきたいと考えている方にとっては魅力的な条件といえます。
カスタマーサービスは未経験から挑戦しやすい
なお営業職や管理職などのポジションは経験や知識に加えて適性が求められますが、カスタマーサービスは未経験からでも比較的挑戦しやすい職種といえます。
物流会社においても、顧客の対応や手続きなどを行うカスタマーサービスはなくてはならない職種です。特に日系企業は未経験であっても日本人を採用したいと考えています。
例えば以下は創業200年を超える日系の物流会社がタイ法人で日本人のカスタマーサービス担当者を募集しています。
カスタマーサービスといえば国内の場合、コールセンターでの顧客の問い合わせ対応などをイメージする方が多いと思います。しかし物流会社の場合は顧客貨物の輸出入の手続きを行うなど、貿易事務も兼ねています。
その他、既存顧客への営業・見積もり作成・進捗管理・顧客への報告・損益管理・債権債務管理など幅広い業務に従事します。
必要資格は「日常会話レベルの英語力」のみです。月収は手取り21万円以上との提示があります。入社後のパフォーマンスに応じて随時昇給します。またボーナスやその他の手当もあります。頑張り次第で昇給が約束されているので、モチベーションを維持しやすい労働環境にあるといえます。
未経験からこのような求人に応募してキャリアを積んでいけば、海外の物流業界で長期的に働くことが可能です。
物流業界で海外駐在の求人は存在するのか
また物流業界での海外転職を考えたとき、「駐在員として赴任したい」と考える方も多いです。駐在員は待遇が良く、現地採用とは違って任期の期限があるため、初めての海外生活でも不安なく挑戦できることなどがメリットとして挙げられます。
ただ駐在員のポジションを目指すのであれば、それなりの経験や責任あるポジションでハードワークをする覚悟が必要です。例えば、日本を代表するグローバル総合重工業メーカーが以下のような求人を出しています。
こちらのポジションは、エネルギー領域のロジスティクスマネージャーです。入社後は1年間東京で勤務して、その後、東南アジアで駐在することになります。海外火力発電プラント建設プロジェクトの陸上ロジスティクスマネージャーを担当します。
この企業は物流会社ではないため、これまで紹介した求人とは業務内容が異なります。製品の納期・輸送コスト・輸送業務品質の管理、工場や調達部署の取りまとめなど、ロジスティクスから購買・調達・マネジメントまで幅広い業務に従事します。
海外のプラント建設という大きなミッションを背負って、設計部門や建設部門と関わりながら完成を見届けられる、やりがいを感じられる仕事内容です。
月給は416,000円(基本給)からとの提示があります。また、年に一度の昇給の機会、年に二度のボーナス支給があります。
さらに福利厚生では通勤手当・社宅制度・資格補助支援制度などがあり、待遇面は問題ないといえます。物流業界の中でもグローバルかつスケールの大きいフィールドで活躍できる求人です。
まとめ
日本の物流業界で、ある程度のキャリアがあれば、海外の物流業界に転職することは容易です。その場合、営業職・コンサルティング・倉庫管理・マネージャーといったポジションがあります。
さらに、キャリアアップとして海外転職を考えているのであれば駐在員を狙うこともできます。物流部門だけでなく、幅広い業務を任されるのでビジネス経験を積めて自身の成長にもつながります。
一方で、未経験の場合はカスタマーサービスや既存顧客への営業などの求人が存在します。そこで経験を積めば、他の職種にステップアップしていくことも可能です。
また物流業界は豊富な求人が存在するため、ここで紹介した以外の職種やメーカーの物流部門でのポジションなどもあります。より多くの選択肢を持つために、様々な求人に目を通すことをおすすめします。
こうしたことを認識し、複数の転職サイトを活用しつつ多くの求人をチェックしてみましょう。そうすれば、物流(倉庫)・ロジスティクスの海外求人を発掘できるようになります。
海外転職を実現するときであっても、転職サイトを利用するのが一般的です。日本に居ながら転職活動をするのが普通なのです(海外在住者も同じく転職サイトを使い、現地で活動する)。
ただ、海外転職に対応している転職エージェントは少ないです。日本にある転職サイトはほとんどが国内求人のみに対応しているからです。ただ探せば、問題なく海外求人に対応している転職サイトを利用することができます。
しかし、海外求人はそれ自体がレアです。また、「アジアに特化している」「専門性の高い求人ばかり保有している」など、転職サイトごとに特徴があります。そこで、2~3社の転職エージェントを利用して、見比べながら求人を探さなければいけません。
人によって狙っている国や求人は異なります。そこである程度まで求人の条件を絞って転職活動をしましょう。そのために必要な「海外対応の転職サイト」の特徴や違いについて、以下で記しています。