音楽好きの方にとって、音楽に携われる仕事に就けることはとても幸せなことです。ただ好きなことを仕事にできるのは理想ですが、現実は難しく大半の方が好きなことだけで生計を立てていけません。

特に音楽系の仕事は求人自体が少なく、他の一般的な職種に比べると就職しにくいです。そのため、海外で音楽関連の仕事を探すのはさらに困難になります。ただし、「海外転職はできない」というわけではありません。

海外で音楽に関わる方法として「教育者」「プロの音楽家」「演奏家ではなく音楽業界に携われるポジション」の3つの選択肢が挙げられます。ここではそれぞれの就職状況を解説し、さらに音楽療法士といった特殊な職種についても触れていきたいと思います。

狙い目は、日本語と音楽の技術を活かせる求人

海外で音楽関係の仕事に就く場合、日本人向けの求人自体が少ないのですが、音楽の技術に加えて日本語を活かせるポジションであれば海外でも需要はあります。具体的には日本人の子供に音楽を教える仕事です。例えば以下の求人ではピアノの講師を募集しています。

勤務地は中国の上海です。日本人向けの音楽教室で30名以上の生徒を担当するピアノ講師を募集しています。応募必須資格は「ピアノ講師経験」があることのみです。中国語は問われません。

また、福利厚生には年に一度の帰国手当や住宅補助が含まれています。海外勤務ですが上海であれば日本からも近いので、初めての海外勤務でも安心して挑戦できます。

ピアノの技術を活かして幼稚園で働く

ピアノの技術に加えて保育士資格や幼稚園教諭の資格を保持していれば、海外の日本人向け幼稚園で需要があります。例えば以下のような求人がこれに該当します。

勤務地はベトナム・ホーチミンです。駐在員の子供含め、100名ほどの規模の幼稚園で2~5歳児のいずれかのクラスを担当する先生を募集しています。現地スタッフのアシスタントも在籍しているので安心です。

応募資格は「保育士資格あるいは幼稚園教諭資格(初心者でもOK)がある」「ピアノが弾ける」ことです。外国語能力は問われません。

初任給は約143,000円(1ドル110円で算出)との提示がありますが、契約更新時に昇給していきます。また、医療保険や損害保険の費用は会社負担です。さらに、往復航空券費用(88,000円程度)も支給されるので日本への一時帰国の費用にも困りません。

ちなみにベトナムの物価は日本の1/3~1/5ともいわれており、14万円程度の収入があれば十分に暮らしていけます。

音楽全般の才能を活かせる求人

ピアノ以外の楽器の技術を活かせるポジションもあります。例えば以下の会社では、音楽教室に加えて弦楽団や教室以外での音楽活動を行っているため音楽全般の能力を活かすことができます。

勤務地は台湾です。仕事内容は日本語の指導・日本文化の紹介および伝授などです。教室外で歌や楽器を使って音楽活動も行います。必須資格は、「大学を卒業している」「幼児への指導ができる」「歌や楽器(ピアノ・バイオリン・ギターなど)が得意」などです。

勤務日には昼食が提供され、住居は会社の負担により格安で借りられます。日本語教師として、音楽教師として幅広く活躍できます。

このような教育関連のポジションであれば、音楽の才能を活かして海外就職が可能です。語学力が求められないため、求人の選択肢は広いといえます。

海外でプロの音楽家を目指す

ただ、「教育者ではなく音楽のプロを目指して海外で活躍したい」という方もいるでしょう。その場合、競争率はかなり高くなりますが、オーケストラ楽団に就職するのが最も一般的です。

ただしオーケストラへの就職は一般的な就職活動とは異なり、オーディション形式です。しかも1人の枠に何百人という才能を持った音楽家が集まります。

日本のオーケストラ集団に就職する

オーケストラ集団の場合、一般的な企業とは異なり毎年新卒を採用することはありません。定年退職などで空きが出たときにのみ募集をかけます。しかも基本的には入団してから定年まで働き続けるのが一般的なので求人が少ないのが現状です。

例えば以下の求人のように空きが出たポジションに対して随時募集がかかります。

この求人はトランペット奏者の募集であり、採用人数は1名です。オーディション形式で選考が進みます。

また、国内のオーケストラ楽団に就職しても海外研修のチャンスがありグローバルな経験を積むことは可能です。実際に毎年ドイツやベルギー・オーストリアなどの研修へ参加しています。さらに海外公演を実施する楽団もあり、海外を舞台にプロの演奏家として実力を発揮できます。

海外の音楽学校を卒業する

海外のオーケストラ集団に就職する場合、最も大きな問題となるのが就労ビザです。あなたにいくら溢れた才能があったとしても、その国の就労ビザがなければ応募することすらできません。

例えば以下ではベルギーのオーケストラでホルン演奏者のポジションを募集していますが、応募必須条件のところにはEU圏以外の人は労働許可証の提出が求められています。

したがってEU圏での就労ビザを保持していない人は応募条件をクリアできません。このオーケストラに所属すれば年に50~70回ものコンサートに出演でき、ベルギー以外の国で演奏することもあります。

グローバルに活躍するプロの音楽家になれることは間違いありませんが、採用されるには就労ビザに加えて、英語力・たぐいまれな才能が必要になります。

ただ、現地の音楽学校を卒業すれば基本的に就労ビザを取得することができます。実際に私の友人にも、オランダの音楽学校を卒業してプロのクラリネット演奏者として活躍している日本人の友達がいます。

彼女はオランダのオーケストラにフリーランスとして所属しています。ただし正社員ではなく、コンサート毎に契約を結んでいます。また彼女はオーケストラの仕事とは別に日本人の子どもにピアノやクラリネットを個人レッスンで教えています。

彼女いわく、オーケストラの正団員のポジションに就くのは「極めて困難」とのことです。国際的なオーケストラ集団となると世界中から応募者が集まってくるのでオーディションの倍率は数百倍になることも珍しくありません。

ここで、「海外のオーケストラ集団となると、その国の語学力が必要になるのでは?」と不安を覚える方もいると思います。しかし、ヨーロッパなどの楽団はさまざまな国籍のプロが集まるインターナショナルな集団のため、コミュニケーションは基本的に英語です。

実際に私の友人は多くのオーケストラ集団のコンサートに出演していますが、英語と日本語以外は話せません。彼女は「英語さえ話せれば問題ない」と語っていました。

海外でプロの音楽家として活躍したいのであれば、海外留学してオーケストラの入団を目指す必要があります。ただし、その道のりは決して容易ではありません。

音楽療法士として海外で就職する場合、その国の国家資格が必要

他には音楽の力を使って、心身の障害のある子どもや高齢者などに癒しを与えたり、障害を回復させたりする「音楽療法士」という資格が存在します。

日本では音楽療法士という職種自体、歴史が浅く国家資格ではありません。そのため音楽療法士の活躍の場は少ないのが現状です。しかし欧米諸国の中には、音楽療法士を国家資格としており、医療現場など多くのフィールドで活躍できる国も存在します。

音楽療法士を目指している、あるいは既に資格を持っている方の中には、海外の音楽療法が進んでいる国でグローバルに活躍したいと考える方もいると思います。しかし、残念ながら日本の音楽療法士の資格を活かして海外で就職することはできません。

音楽療法士として海外で就職したいのであれば、その国の国家資格を取得することをおすすめします。アメリカ・イギリス・オーストラリア・ドイツなど音楽療法の進んだ国に留学する道があります。しかし、お金も時間もかかってしまうため、簡単な道のりとはいえません。

演奏者としてではなく、音楽業界に携われる求人

ここまで、音楽家としてグローバルに活躍するには、「教育者になる」あるいは「狭き門だがプロの演奏家を目指す」方法があることを紹介しました。

ただ演奏者としてではなく、海外で音楽業界に携われるその他の求人も存在します。「自分の演奏を聴いてもらいたい」という方には物足りなく感じるかもしれませんが、ものすごい倍率の中オーディションを受け続けるよりも現実的といえます。

例えば以下の求人では、海外で音楽関係のイベントの運営・企画などを行うマーケティング・PRマネージャーを募集しています。

勤務地はシンガポールです。仕事内容は「アジアエリアでのイベント運営・企画」「メディア対応」「スポンサーとの交渉」「SNSやファンクラブの運営」などです。

応募資格は「関連業界で3年以上の経験」「ビジネスレベル以上の英語力」です。また、音楽業界での経験があると選考において優遇されます。

音楽業界の中でもメディア関係の仕事になりますが、音楽のスキルだけでなくマーケティングや広報の経験が積めます。音楽だけでなく、このような経験を積めると、その後のあなたのキャリアにおいてプラスに働くといえます。

海外出張でグローバルに活躍する

海外勤務でなくても、音楽業界で海外出張のあるポジションに就くことも可能です。例えば以下の求人がこれに該当します。

勤務地は東京都です。日本の作曲家・演奏者を世界のマーケットとつなぐことを目的に海外営業を担当します。具体的には、演奏旅行の添乗から旅行手配・イベントのコーディネート・招致活動などを行います。

こちらの企業は海外の指導者協会や公共機関、学校との結びつきが強いです。そのため、日本の音楽作品を知ってもらう「音楽仲立ち人」として活躍できる、やりがいのあるポジションといえます。

応募条件は「音楽の中でも吹奏楽・合唱・クラシックの知識」「旅行会社で添乗経験あるいはホテルで接客経験」「日常会話レベルの英語力」があることです。

海外出張や海外関係者とのコミュニケーションが必要なため、ある程度の英語力が求められます。

また、年収は350~500万円との提示があります。加えて借上社宅制度があるので居住費を抑えることが可能です。

このように直接音楽の才能を活かせるポジションではありませんが、あなたのこれまでの音楽で培ってきた経験・知識を活かし、グローバルに活躍する選択肢があるのです。

まとめ

海外で音楽業界の仕事に就くには「教育者」「プロの演奏家」「音楽関連の仕事に就く」の大きく3つの選択肢があることを紹介しました。また、音楽療法士を目指すのであれば海外留学して現地の資格を取得しなければなりません。

一般的な職種とは就職状況が大きく異なります。ただ、ここで紹介した職種以外にも音楽に関われる仕事はあります。

稀な求人も存在するため、選択肢を広げるためにもなるべく多くの求人に目を通すことをおすすめします。そのためには複数の転職サイトに登録するのが必須です。

また、転職エージェントの担当者にあなたの希望を伝え、条件の合う求人が掲載されたらすぐに連絡してもらうようにすることも大切です。そうして、海外での音楽転職を成功させるようにしましょう。


海外転職を実現するときであっても、転職サイトを利用するのが一般的です。日本に居ながら転職活動をするのが普通なのです(海外在住者も同じく転職サイトを使い、現地で活動する)。

ただ、海外転職に対応している転職エージェントは少ないです。日本にある転職サイトはほとんどが国内求人のみに対応しているからです。ただ探せば、問題なく海外求人に対応している転職サイトを利用することができます。

しかし、海外求人はそれ自体がレアです。また、「アジアに特化している」「専門性の高い求人ばかり保有している」など、転職サイトごとに特徴があります。そこで、2~3社の転職エージェントを利用して、見比べながら求人を探さなければいけません。

人によって狙っている国や求人は異なります。そこである程度まで求人の条件を絞って転職活動をしましょう。そのために必要な「海外対応の転職サイト」の特徴や違いについて、以下で記しています。