栄養士や管理栄養士の資格を活かして海外転職したいと考えている方は多いです。何年もかけて習得した知識・スキルを「次のキャリアにつなげたい」と考えるのは当然のことです。
ただ残念ながら、日本の栄養士や管理栄養士の免許は日本国内においてのみ有効であって、海外では適用されません。
しかし医療従事者の国家資格の中には、海外のいくつかの国において一定条件のもと、資格を使えることがあります。例えば、医師や看護師などがこれに該当します。しかし栄養士・管理栄養士は国を出れば肩書きは無くなってしまうのです。
それでも実は、栄養士・管理栄養士として海外で働く方法はたくさんあります。ここでは、栄養士・管理栄養士が海外で活躍する場合にどのような選択肢があり、どのようなポイントが求められるのかを紹介していきます。
もくじ
海外で栄養士・管理栄養士の免許書き換えは可能なのか
冒頭で述べた通り、日本国内で取得した栄養士や管理栄養士の免許を海外でそのまま使うことはできません。それでは「免許の書き換え」は可能なのでしょうか。
例えば、看護師免許の場合は複数の国で免許の書き換えが可能です。アメリカの場合だと、日本の大学や専門学校で取得した単位の審査を受け、「NCLEX-RN」という試験に受かれば看護師として働くことができます。
オーストラリアの場合、日本の大学の看護学部を卒業し看護師の実務経験があれば、英語試験のみをクリアすることで看護師として就労できます。
実際に私の友人はオーストラリアで看護師免許の書き換えを行い、働いています。「日本で働くよりもストレスが溜まらないから、このままオーストラリアで暮らす」と話していました。
それでは栄養士・管理栄養士の場合はどうなのでしょうか。結論から述べると残念ながら免許の書き換えはできません。その国の制度に基づいて免許を取り直す必要があります。
アメリカで管理栄養士になる事例
そこで例として、ここではアメリカで管理栄養士になる場合を見ていきます。まずは大学に通い直す必要があります。ただ、日本の大学で取得した単位を認めてくれることがあるので、全ての単位を履修する必要はありません。
大学で学位を取得した後にインターンシップに参加して、認定試験に受かれば晴れて栄養士・管理栄養士としてアメリカで働けます。このように記載すると簡単に思えるかもしれませんが、3つの問題があります。
- ロングスパンを覚悟(5年以上は時間を費やす覚悟が必要)
- 莫大なコスト(数百万円の学費に加えて生活費がかかる)
- 必ず就職先が見つかるとは限らない(就労ビザの問題もあり、資格を取得しても働ける保証は無い)
これらの問題を受け入れて、「資格をイチから取得する」というのも海外で働くための選択肢の一つです。ただ、「すぐに海外転職したい」という方には現実的ではありません。
ここでは、アメリカで栄養士・管理栄養士を目指す場合のみを紹介しましたが、東南アジアを含め他の国においても大きな差はないです。
栄養士・管理栄養士の活躍の場は様々
それでは「なるべく早く海外で働きたい」場合、どのような就職先があるのでしょうか。
このとき、栄養士・管理栄養士としての資格をそのまま活かせる就職先があります。ただ、資格にこだわりすぎなくても栄養学の知識と日本での経験を活かせば他にも選択肢はあります。
栄養士・管理栄養士の資格を活かせる求人
免許をそのまま使うわけではありませんが、海外求人の中には日本の栄養士や管理栄養士を求めている求人があります。例えば以下のような求人がこれに該当します。
勤務地はカンボジアにある日本式救急救命センター内です。病院で「患者食の調理」「社員向け調理」「特別メニューの調理(ケータリング用など)」を担当します。
患者食は、病院に在籍している管理栄養士と共に業務を遂行します。あなたが有資格者であれば、このような担当者との業務が進めやすく有利です。応募資格は「和食調理師としての経験があること」です。
カンボジアの現地の病院内では日本食を食べることはできません。そのため、栄養学に基づきバランスのとれた日本食を調理・提供できる日本人の栄養士や管理栄養士は、日本人の患者さんや医療・職員スタッフから高い需要があるのです。
年俸は450~600万円との提示があり、日本の病院内で管理栄養士として働く場合と待遇に大差はありません。また、病院から徒歩圏内に寮を手配してもらえます。むしろ物価水準の低いカンボジア(平均月収が3万円程度)で、このような好待遇で就職できるため、かなり余裕のある暮らしができます。
・給食業務の海外求人
また、栄養士や管理栄養士が活躍するケースの多い給食業務についても海外で募集があります。例えば以下のような求人です。
勤務地はアフリカ北東部に位置するジブチ共和国です。フランス人が常夏を楽しみに訪れる国でもあります。ここにある日本人施設内の食堂で、「メニューの栄養計算」「食材管理」「仕入れ・食材調達」「打合せ」などを行います。
必須条件には、「栄養士免許保有者」との記載があります。献立作成やカロリー計算ができる能力が必要です。また、英語力は必須ではありませんが初級レベルの英語力があると選考において有利となります。
月給は25~40万円であり、これとは別に寮と食事が付いています。つまり生活費はほとんどかかりません。日本の食堂で働くよりも待遇が良いのではないでしょうか。
このように、海外転職しても日本国内と同様、栄養士・管理栄養士の資格をそのまま活かして病院食の栄養管理や給食業務に携われる仕事があるのです。
栄養士・管理栄養士の知識と経験を活かせる求人
また栄養士・管理栄養士の資格にこだわらないで、知識とこれまでの経験を活かせる仕事もあります。例えば以下のような求人がこれに該当します。
勤務地はオーストラリアのメルボルンです。オーストラリアはビザの取得がかなり難しい国ですが、求人票には「ビザサポート有り」との記載があるので安心です。フランチャイズチェーン向けの新メニュー開発や原価計算、食材調達、製品開発などに従事します。
応募条件には「大量料理生産経験者」との記載があり、日本で病院食や給食を調理していた経験があれば条件を満たせます。
また、英語力は「意思疎通ができるレベル」でOKです。オーストラリアは英語を母国語とするので、多くの求人においてビジネスレベル以上の英語力が求められます。ただ、このような特別なスキルが必要な場合は高い語学力は無くても問題ありません。
あなたが開発した栄養バランスのとれたメニューがオーストラリア全土の店舗で採用される可能性があります。このように栄養士・管理栄養士として夢のある仕事に就くこともできるのです。
日本の栄養士・管理栄養士が海外転職する3つのメリット
なお、日本の栄養士・管理栄養士が海外で転職する場合、3つのメリットがあります。
- あまり求人のない国で働くことができる
- グローバルな知識を兼ね備えた「食の専門家」になれる
- 高い語学力が求められない
これらの点については、何も資格や経験を持たない人よりも圧倒的に有利だといえます。それぞれ詳しく見ていきましょう。
あまり求人のない国で働くことができる
一般的に、海外転職の多くはシンガポール・タイ・ベトナム・マレーシア・インドネシアなどアジアを中心に求人があります。
一方で、栄養士や管理栄養士が活躍できる求人にはアジア以外の国も多く見られます。アメリカやオーストラリアなどの国に限らず、これにはマイナーな国も含まれます。例えば以下のような求人です。
勤務地はバヌアツ共和国です。「聞いたこともない国」という方も多いと思いますが、南太平洋に浮かぶオーストラリアの近くに位置した小さな島です。ビーチの美しい島には毎年多くの欧米人がバカンスに訪れます。
海沿いにあるホテルのレストランで「欧米人に人気の出そうなメニュー開発を任せたい」と、知識と経験のある日本人シェフを募集しています。
具体的な仕事内容はメニュー開発をはじめ、調理・買い出し・在庫管理・コスト管理・キッチン管理・スタッフの教育などです。現地スタッフの教育を行うため、意思疎通や指示を出せる程度の英語力が必須となります。
福利厚生には住居手当やスタッフミール3食が支給されるので、生活費はほとんどかかりません。
海外転職を考える人の中には、「日本でのストレスフルな労働環境から抜け出したい」という動機もあるでしょう。このような南国の小さな島で美しい海を眺めながら、栄養士・管理栄養士としての知識やスキルを活かして働く選択肢もあるのです。
前述したジブチ共和国もそうですが、日本食は世界中で人気があるため、このようなあまり求人を見かけないような珍しい国でも求人を見つけられます。海外転職する場合、他の職種に比べて働く国の選択肢が幅広いのは大きなメリットの一つです。
グローバルな知識を兼ね備えた「食の専門家」になれる
なお日本の食文化レベルは世界トップレベルですが、食のグローバル化については遅れている部分があります。例えば私のオランダの友人が日本へ旅行した際、「日本食は美味しいが、ベジタリアンメニューが少なすぎる」と不満をこぼしていました。
日本で暮らしているとベジタリアンメニューの重要性には気づきませんが、海外には多くのベジタリアンがいます。ヨーロッパのレストランではメニューに「ベジタリアンマーク」がついているのが普通です。
一方で日本の場合はベジタリアン用メニューを用意している飲食店は少なく、店員にどれがベジタリアンメニューか尋ねても、そもそも英語が通じないこともしばしば起こります。料理のクオリティーは高いけれど、グローバルではないのです。
また、ベジタリアンのように自分のポリシーで肉や魚を摂取しないという人もいれば、宗教上の理由で特定の食品を摂らない人もいます。
例えばイスラム教の場合、豚肉とアルコール類の摂取が禁止されています。豚肉だけでなく、豚肉エキスやラード、豚肉を調理した器具ですら料理に使えません。また、料理酒やみりんなどのアルコールを含む調味料も使えないのです。
したがってムスリム(イスラム教徒の人)でも食べられる和食を提供する場合、材料・調理法・調味料の選択肢が大幅に限られてしまいます。
イスラム教上で食べても良いとされる食品を「ハラール」と呼びます。そしてハラールの基準を満たした食べ物には「ハラールマーク」が表示されます。ムスリムの中にはこのハラールマークが付いた食品以外は口にしないという人もいます。
また、食べ物だけでなく化粧品や医薬品に対してもハラールを満たしているかが重要になります。日本で生活しているとこのような文化の違いに遭遇する機会は少ないですが、海外で食に関わる仕事に就けばグローバルな対応が求められます。
つまり海外でメニュー開発や調理業務に携われば、ベジタリアン料理やハラールに対応したメニュー作り・調理法を身につけることができるのです。
このような経験と技術を身につけた栄養士・管理栄養士は、海外で重宝されるのはもちろん、日本に帰ってからも「グローバルな食の専門家」として活躍の場が広がります。
高い語学力が求められない
一般的な海外転職ではある程度の英語力が求められます。ビジネスレベルやネイティブレベルが必須になることも珍しくありません。一方で、日本食を調理する仕事に携わる場合、語学力よりもあなたの知識と料理の腕が重要視されます。
そのため栄養学に基づいたメニュー開発や調理法を身につけていれば、それが大きな強みとなり、たとえ英語力に自信がなくても海外転職は可能です。
実際に求人を見ても、必須条件に語学力が挙げられていることはほとんどありません。例えば以下の求人を見てみましょう。
ハノイにあるホテル内のレストランで調理・メニュー開発・食材管理及び選定などに携わります。応募必須条件は「3年以上の調理経験があること」のみで、語学力は求められていません。
給与も月30~40万円と決して待遇が悪いわけではなく、このような求人が一般的です。また上記の求人に限らず、ここまで紹介してきた求人についても高い語学力が必須となるものはありませんでした。
したがって栄養士や管理栄養士が海外で日本食の調理に関する仕事に就く場合、英語は障害となりません。
まとめ
日本で栄養学を学び知識と技術を身につけた栄養士・管理栄養士の場合、海外での活躍の場は豊富にあります。
ただし、栄養士・管理栄養士の資格にこだわるのであれば、現地で最初から資格を取得し直す必要があります。それには莫大な時間とコストをかけなければならず、その間のキャリアを止めてしまうことにもなります。それならば、ここで紹介したような栄養士や管理栄養士の有資格者を対象とした求人を探してみるといいです。
また、資格にこだわらなくても栄養学の知識、さらには日本で病院食や給食の調理業務に携わった経験を活かして転職先を選ぶ方法もあります。
栄養士・管理栄養士が応募できる海外求人は様々な国にあり、珍しい国で働くことも可能です。しかも日本食と栄養学に関する知識と料理の腕が重要なので、ほとんどの求人において高い語学力は求められません。
このように日本の栄養士・管理栄養士が海外で働く場合、幅広い選択肢があります。まずは海外転職サイトの求人票をチェックして、あなたが応募したいと思う求人を探してみるとよいでしょう。
海外転職を実現するときであっても、転職サイトを利用するのが一般的です。日本に居ながら転職活動をするのが普通なのです(海外在住者も同じく転職サイトを使い、現地で活動する)。
ただ、海外転職に対応している転職エージェントは少ないです。日本にある転職サイトはほとんどが国内求人のみに対応しているからです。ただ探せば、問題なく海外求人に対応している転職サイトを利用することができます。
しかし、海外求人はそれ自体がレアです。また、「アジアに特化している」「専門性の高い求人ばかり保有している」など、転職サイトごとに特徴があります。そこで、2~3社の転職エージェントを利用して、見比べながら求人を探さなければいけません。
人によって狙っている国や求人は異なります。そこである程度まで求人の条件を絞って転職活動をしましょう。そのために必要な「海外対応の転職サイト」の特徴や違いについて、以下で記しています。