日本の不動産業界でハードワークに耐えて働いていると、「海外の不動産業界ならもう少しのんびりと働けるのでは?」と考える方がいるでしょう。良好な労働環境を期待する以外にも「グローバルに活躍したい」「海外不動産に興味がある」という方もいると思います。

ただ、日本人にとって大きな障害となるのが英語です。しかし実際に不動産の海外求人をみてみると英語がペラペラでなくても応募できる求人が豊富にあることがわかります。つまり、海外の不動産業界で仕事を見つけることはハードルがそこまで高くありません。

ただし、多くの求人には年齢制限があるため、若いほうが選考において有利です。「もう少し英語の勉強をしてから」「もう少し日本でキャリアを積んでから」などと海外転職を先延ばしにすると、求人の選択肢は減っていきます。

そのため海外の不動産業界で働きたいと考えているのであれば、今すぐ求人を探すことをおすすめします。ここでは、海外転職を希望する方のために海外の不動産業界の職種や給与条件、勤務する国・エリアなどについて紹介していきます。

海外の不動産業界で求められる英語力はどの程度必要?

海外の不動産業界といっても顧客の多くは日本人なので、基本的に高い英語力は求められません。もちろん「英語ビジネスレベル以上」の記載の求人も存在しますが、たいていは日常会話レベルで問題ありません。例えば以下の不動産営業の求人をみてみましょう。

勤務地はベトナムです。日系企業向けの反響営業(飛び込み営業ではなく興味を持っている顧客に営業すること)に従事します。問い合わせをもらった日系企業に対して、要望に合った物件を案内して、その後は入居者のフォローや物件オーナーとの交渉・事務作業の対応を担当します。

必要資格は特に無く、求人票にも「語学力は問いません」と記載されています。不動産業界での経験も求められないため未経験でも挑戦できます。このように語学力が全く問われない求人が存在します。

また、中には「日常会話レベルの英語力」が必要とされる求人もあります。顧客が日本人であっても、現地スタッフとのコミュニケーションにおいて日常会話レベルの英語力が必要になるからです。

ただ、日常会話レベルであれば、留学経験がなくても日本でオンライン英会話などを利用すれば習得できます。特に英語を母国語としない国ではセカンドスピーカー同士の会話になるため、「文法や発音を正確にしなくては」と緊張する必要はありません。

私自身、ヨーロッパで5年近く生活していますが未だにアメリカ人やイギリス人と会話するのは苦手です。「こんな英語でいいのかな」という後ろめたさを感じてしまうのです。

一方で、アジア人同士で英語で会話する場合、自然とスラスラ話せます。相手も文法や発音が適当なので、気にしなくなるのです。このように英語を母国語としない国で求められる英語は文法通りにきちんと話す必要はなく、「伝わればいい」というスタンスで大丈夫です。

したがって「英語が苦手だから日常会話レベルなんて無理!」と諦めず、とにかく転職後に英会話の練習をすればアジア圏での日常会話レベルの英語力には簡単に到達できます。

不動産関連の資格は必要ない

なお日本の不動産会社で働く場合、不動産関連資格が必須になる場合があります。例えば、「宅地建物取引士」「不動産鑑定士」「マンション管理士」といった国家資格から、「不動産仲介士」などの民間資格まであります。

職種によっては必須資格が定められていたり、資格を保持していると選考において有利になったりすることがあります。それでは海外の不動産業界ではどうなのでしょうか。

これについては求人票の全てにおいて、不動産関連の資格は求められていません。業界での経験が必須条件として挙げられる求人はありますが、日本の不動産関連資格が必須条件に明記されていることはありません。

海外と日本では不動産に関する規制・法律が異なるため、日本での知識がそのまま通用しないことがあります。国それぞれのルールや事情があるため、海外転職してから現地で学ぶ必要があるのです。

そのため、不動産業界の海外転職において「何か資格があった方がいいのか」というと、特に必要な資格はありません。それよりも語学力を磨いた方が選考においても渡航してから役に立ちます。

海外不動産の転職先で求人が多い職種

また、不動産業界には様々な職種があります。その中でも海外で求人が多いもの、または特別なスキル・経験を保持していなくても応募できる求人をメインに紹介していきます。これには以下のようなものがあります。

  • 不動産仲介の営業
  • カスタマーサービス
  • マンション・ビルの管理
  • 企画・開発(ディベロッパー)
  • 不動産投資サポート・コンサル

それぞれ求人と併せてみていきましょう。

最も求人数の多い不動産仲介の営業

不動産関係の海外転職の求人の中で、最も求人数が多いのは不動産の営業職です。主に日本人顧客に対して不動産の営業を行います。日本から赴任してきた駐在員に向けて日本人に合った物件を紹介します。

海外では、現地の人と日本人で物件に対する希望が大きく異なります。例えば日本人の場合、ユニットバスやシャワールームしか付いていない物件は避ける方が多いと思います。

しかし、国によってはシャワーが一般的で、日本のようにシャワーとバスタブが同室にある物件(浴室のある物件)は存在しないことがあります。ちなみに私が住んでいるヨーロッパの家はシャワールームとバスタブが洗面台を挟んでそれぞれ独立して存在します。

これがシャワールームであり、洗面台を挟んでバスタブがあります。日本では考えられない構造です。

また、日本人の場合はセキュリティー面や治安・便利さを条件に挙げる方も多いでしょう。日本で物件を探すケースとはまた異なる条件を挙げる必要があります。

その他にも、賃貸の価格基準が日本とは異なることがあります。例えば、ヨーロッパの場合は築年数が古くなるにつれて家賃が安くなったりすることはありません。また、日本のように「駅から近い便利な物件は高い」といったことも必ずしも当てはまりません。

ヨーロッパの人は駅から近い家よりも遠い家を好む人が多いからです。日本では駅からの距離によって賃貸価格が変わるのは普通のことですが、ヨーロッパではあまり変わらない、あるいは駅から遠い方が価格が上がるエリアも存在します。

ヨーロッパの人は便利さよりも静けさ・美しい自然の中で暮らすことに価値を置く傾向が強いのです。また賃貸の場合、大家さんと住人の力関係が日本とは全く異なります。

ヨーロッパでは圧倒的に大家さんの権利が強く、「翌月出て行ってください」と言われたら引っ越さなければいけません。このように海外で日本人に物件を紹介する場合は現地の習慣や実情、日本人が好む物件をよく知った上で営業していく必要があります。

それでは不動産仲介の営業職にはどのような求人があるのでしょうか。例えば以下のような求人があります。

勤務地はタイです。この不動産会社は日本人が経営していますが、様々な国籍の社員が働いています。営業職の仕事内容は、日本人顧客に対するアパートやオフィス・工場の賃貸仲介、分譲マンションの販売です。

応募資格は「専門学校か短大か大学を卒業」「30歳未満」「英語あるいはタイ語が日常会話レベル、あるいは勉強中で1年以内に会話できる」です。

この求人の場合は、応募時点で英語力が日常会話レベルに達していなくても勉強中であれば問題ありません。一方で、「30歳未満」という年齢制限が設けられています。

冒頭でも述べた通り、海外転職の場合、語学力やスキルよりも若さが重視されることがあります。これには、就労ビザを取得する上で必要な場合や、会社がなるべく長期間働いて欲しいという意図があります。

また、月給は14~17万円程度(1バーツ3.5円で算出)です。日本の物価の1/3程度といわれているタイでは十分に生活していけます。

・テナント開拓などの営業ポジション

またテナントや新規顧客を開拓する不動産の営業職も存在します。前述のアパートやオフィスの賃貸仲介といった仕事よりもスケールのより大きな業務となります。例えば以下のような求人です。

勤務地は台湾です。日本大手の不動産会社の営業部で「テナント開拓営業」「新規顧客への営業」「百貨店とのやりとり」を担当します。

応募必須条件は「商業施設・百貨店とのやりとりの経験」「アパレル関連の経験」があることです。英語や中国語などの語学力は特に求められていません。台湾に進出する日系企業に営業をかけたりサポートしたりするポジションのため日本語で仕事は遂行できます。

「英語が苦手だけど日本でテナント開拓などの営業経験がある」という方におすすめの求人です。

不動産業界での経験を活かせるカスタマーサービスのポジション

他には、海外の不動産業界でもカスタマーサービス職の求人があります。カスタマーサービスでは顧客の問い合わせ対応やトラブル解決をサポートする仕事を行います。例えば以下のような求人です。

勤務地はフィリピンのマニラです。日本人に対して不動産賃貸営業を行っている会社です。

応募資格は「22歳以上35歳くらいまで」「日常英会話ができる(現地スタッフとのコミュニケーションが取れればOK)」となっており、年齢制限が設けられています。また、不動産業界経験・営業経験・ホテル経験のいずれかの経験があると優遇されます。

経験が求められるマンション・ビルの管理

不動産業界の職種には物件仲介ではなく、物件・設備管理を担当するポジションも存在します。海外の不動産であっても「日本人が多く住む物件の管理は日本人に任せたい」という需要があるのです。例えば以下のような求人があります。

勤務地はベトナムのハノイです。不動産会社が保有する賃貸及び分譲マンションが清潔・安全に保たれているかを日本基準でマネジメントするのが主な業務です。

具体的には「建物および設備のメンテナンス業務の指示」「テナントの管理」「現地スタッフの育成・管理」などになります。

応募必須条件は「設備管理経験やマンション管理の経験」「ビジネスレベルの英語」です。ビジネスレベルの英語力が求められるのは、この求人の場合は現地スタッフの育成や現地の他業者とのやり取りにおいて、ビジネス英語でコミュニケーションを取る必要があるからです。

営業職やカスタマーサポート職に比べるとスキルが求められるポジションですが、その分月給も高いです。月給は約38万円以上(1ドル110円で算出)とベトナムでは高給取りです。

不動産業界の花形職!不動産開発(ディベロッパー)・企画

なお不動産業界の中でも、不動産開発(ディベロッパー)・企画職は花形職であり、憧れている方も多いでしょう。海外の不動産業界においてもディベロッパーや企画の求人が存在します。

例えば以下の求人では、100年以上かけて街開発をリードしてきた日本の大手不動産ディベロッパーが日本・海外で活躍する人材を募集しています。

職種は総合職です。「オフィスビルや商業施設の開発企画・賃貸・運営管理」「住宅の開発企画」「物流施設の開発」「空港ターミナルの運営」「クライアントに対するコンサルティング営業」など業務内容は多岐に渡ります。

また、ジョブローテーションもあるため様々なスキルを身につけることができます。応募条件は「4年制大学あるいは大学院を卒業した方で社会人経験が3年以上ある」です。不動産業務に関する経験は不問です。

また英語力に関する記載もありません。それよりもチャレンジ精神が旺盛であること、グループ全体をけん引できる人物を求めています。

ただ、この求人の場合は勤務地が限定されておらず、日本国内と海外(ニューヨーク・ロンドン・シンガポール・上海・台湾など)のいずれかの勤務になります。さらにいうと、最初の勤務地は日本国内の首都圏となります。

「今すぐに海外で勤務したい」という方には向いていませんが、「様々なキャリアを積んでゆくゆくは海外で活躍したい」という方にふさわしい求人といえます。

日系企業や日本人顧客の不動産投資サポート・コンサル

他には、海外の不動産を購入あるいは投資を考えている日本人や日系企業では、現地の不動産事情に詳しい日本人によるコンサルティングに対する需要があります。そのため、不動産投資をサポートや不動産コンサルに従事する日本人の求人があります。例えば以下のような求人です。

勤務地はマレーシアです。日系企業や個人投資家からの不動産投資全般のサポートに従事するのが主な業務です。

具体的には「日本人が不動産投資のために物件を見たり、賃貸物件に住むために住居を確認したりするときの視察ツアーの案内」「投資してもらった不動産の管理業務」などです。

応募資格は「30歳くらいまで」「大卒以上」「TOEIC700点以上」などがあります。

不動産投資サポートに従事しますが、特に業界経験などは問われません。コンサルティング営業としての経験を積むことで幅広い知識が得られるため、あなたのキャリア形成においてプラスにつながります。

・高度な知識が求められるコンサルティング営業職

ただ同じく不動産コンサルティングのポジションでも、より高度な専門知識が求められる求人も存在します。例えば以下のような求人がこれに該当します。

勤務地はインドネシアのジャカルタです。仕事内容は「日系企業の不動産コンサルティング営業活動」「金融・行政機関との関係性構築」です。

応募必須資格は「不動産・建設・金融の知識や業界経験がある」「ビジネスレベルの英語力あるいはインドネシア語力がある」「インドネシアで長期勤務が可能」です。

コンサルティングするにあたり、不動産の知識だけでなく、金融・行政知識や現地の法律・規制など幅広く知っておく必要があります。語学力もビジネスレベルの英語力が求められ、高度なスキルが求められる求人といえます。

給与は手取りで約19~28万円との提示があります。さらに、車や住宅に関しても交渉可能です。

未経験でも海外の不動産業界に転職することは可能なのか

一方で、海外転職を希望している人の中には「未経験だけど海外の不動産業界に挑戦してみたい」と考える方もいるでしょう。

未経験者の場合、応募できる求人数が減りますが、英語力さえあれば未経験からでも不動産業界に海外転職することは可能です。例えば以下の求人では、初めての不動産業界でも研修制度が充実しているので安心して働けます。

勤務地は香港です。日本の大手不動産賃貸仲介会社の海外事業部である香港法人で営業職を募集しています。不動産賃貸会社のため、顧客の希望に合った物件を紹介して契約し、アフターフォローまで従事します。

不動産業界の経験は問われず、入社後はOJT研修によって時間をかけて知識を習得していきます。応募資格は「英語あるいは中国語が日常会話レベル以上」です。顧客対応や社内コミュニケーションで語学力が必要となります。

この営業ポジションは将来の幹部候補でもあるため、未経験からでも幹部を目指すことができます。「海外で長期的にキャリアを積んでいきたい」と考えている方におすすめです。

カスタマーサービスも未経験求人が多い

また営業などではなくカスタマーサービスであれば、未経験でも挑戦できる求人が意外とたくさんあります。例えば以下の求人では、シンガポールにある不動産会社でカスタマーサービス職を募集しています。

シンガポールはアジアでもトップクラスの経済大国です。そのためシンガポールで働きたいと考える外国人は多く、海外からシンガポールで仕事を探すのは難しくなってきています。

そうしたシンガポールでも、未経験から応募可能な不動産会社のカスタマーサービスのポジションがあります。仕事内容は「既存顧客の問い合わせ対応」「退去時の住宅状況の確認」など、賃貸マンションに関する仕事を担当します。

応募資格は「1年以上の就労経験」「ビジネスレベルの英語力」があることです。業界経験は問われないので未経験であっても応募できます。

ただ、この求人ではビジネスレベルの英語力が求められます。顧客の問い合わせに応じて現地の業者を手配する必要があるためです。ただ、その分だけ給与は高く31万円程度の提示です。

このようにたとえ未経験であっても英語さえ問題なければ、海外の不動産業界に転職することは可能です。

まとめ

海外の不動産業界では、営業・カスタマーサービス・ディベロッパー・不動産コンサルといった職種の求人があります。そのほとんどにおいて、高い英語力や不動産関連の資格は求められません。理由は単純であり、日本人顧客が相手になるからです。反面、若さや日本での就業経験が重要となってきます。

一方で未経験から不動産業界に海外転職を考えている場合、英語力が求められます。不動産業界では、業界経験または英語力のどちらかが要求されます。

ただ共通しているのは、求人の選択肢が多い若いうちに転職するほうが有利な点です。年齢制限が多く、30代後半になると求人数はかなり減ってしまいます。

「まだ決断ができない」という場合でも、まずは複数の転職サイトに登録して希望業界や職種を伝えるといいです。そうして行動に移すことで海外の優れた不動産求人を見つけられるようになります。


海外転職を実現するときであっても、転職サイトを利用するのが一般的です。日本に居ながら転職活動をするのが普通なのです(海外在住者も同じく転職サイトを使い、現地で活動する)。

ただ、海外転職に対応している転職エージェントは少ないです。日本にある転職サイトはほとんどが国内求人のみに対応しているからです。ただ探せば、問題なく海外求人に対応している転職サイトを利用することができます。

しかし、海外求人はそれ自体がレアです。また、「アジアに特化している」「専門性の高い求人ばかり保有している」など、転職サイトごとに特徴があります。そこで、2~3社の転職エージェントを利用して、見比べながら求人を探さなければいけません。

人によって狙っている国や求人は異なります。そこである程度まで求人の条件を絞って転職活動をしましょう。そのために必要な「海外対応の転職サイト」の特徴や違いについて、以下で記しています。