寿司は世界中で最も認知度の高い日本食といえます。寿司好きな外国人は多く、世界中で寿司を提供するレストランが増えてきました。

このような中、寿司を握れる日本人は世界中で求人があります。ただ、必ずしも「日本で働くより仕事が楽」「容易にスキルアップ・キャリアを築くことが可能」「簡単に独立できる」わけではありません。

海外では日本とは異なる事情があり、それらを知らずに海外転職すると失敗してしまいます。

ここでは、海外で寿司職人を目指している人のために、「海外の寿司店で働くメリット・デメリット」「日本と海外の寿司の違い」などについて解説していきます。

寿司職人・板前として海外転職するメリットは多い

海外で寿司職人・板前として活躍するメリットには何があるのでしょうか。冒頭でも述べた通り、寿司職人の求人は世界中で見つけられます。アメリカやヨーロッパなど、ビザの取得が難しい国であっても求人があります。

現地で寿司を握れる調理師を見つけることが困難なため、日本から人材を呼んでビザのスポンサーとなる企業が存在するのです。

そのため、あなたが興味のある国で求人を見つけられます。例えば以下のような求人がこれに該当します。

勤務先は、美しい自然と過ごしやすい気候のため移住希望者の絶えないアメリカ・シアトルです。ここにある本格江戸前寿司店が日本人シェフを募集しています。

年収は604万円との提示があり、条件は悪くありません。多数の日本人シェフが在籍しているため、本格江戸前寿司の技術を学びながら経験を積めます。

就労ビザの取得が難しいアメリカであっても、ニューヨークやロサンゼルス、ハワイなど主要都市で豊富な求人が存在します。また、あまり求人を見かけないヨーロッパの小さな国でも日本人の寿司職人を募集しています。

このように「求人数が多い」ため、それだけ選択肢が多く、様々なチャンスを掴むことができるのです。

「日本人」が大きな付加価値になり、英語力は不要

また寿司の技術があることは大きな強みですが、「日本人であること」がさらに付加価値を上げます。お寿司を握れる腕の良いアジア人は世界中にいるので、日本人ということ自体が希少になるのです。

中国人経営の日本食レストランは、手軽な価格で日本食を食べられることから海外で人気があります。実際、私が住んでいるオランダでは「日本人経営の日本料理屋」よりも「中国人経営の日本食レストラン」の方が圧倒的に店舗数は多いです。

ただ、オランダ人は「カウンターで中国人がお寿司を握っている」ことに気づいています。私に「どこが本当の日本食レストランなのか」と尋ねるオランダ人も少なくありません。

そうしたとき、「日本人が握っているお寿司」が店の付加価値を上げるのです。そうしたこともあって、寿司職人・板前に関しては英語が話せなくても海外転職の大きな障害にはなりません。

求められたとしても「日常会話レベルの英語力」です。例えば以下の求人のような語学力を問わない求人が大半です。

勤務先はタイ・バンコクにある寿司店です。オープンカウンターで寿司を握る寿司職人を募集しています。店側としては、オープンカウンターなので腕の良い日本人を採用したいのです。

また、働いているスタッフも日本人が多いため、英語が苦手であっても問題ありません。将来的には料理長やエリアマネージャーへステップアップも可能なので、長期的にキャリアを築けるポジションです。

このように海外では、寿司職人としてのスキルに加えて、日本人であることがあなたの市場価値を大きく高めます。

労働環境が日本より優れている店が多い

海外転職を目指す理由として「労働時間が長すぎる」「長期休みがとれない」といった現状を理由として挙げる人が多いのではないでしょうか。

国や店にもよりますが、多くのケースで労働時間が短い上、「週休2日・長期休みが取りやすい」という好条件な求人も存在します。例えば以下のような求人がこれに該当します。

勤務地はドイツの工業都市シュトゥトガルトです。寿司職経験が3年以上あれば応募できます。ドイツですが英語やドイツ語などの語学力は問われません。

勤務時間は、「17時から23時までの6時間労働」です。ただ、週に1・2回3時間程度の昼間勤務があります。日本の寿司店のように営業時間が長くなく、ランチ営業もしていないので労働時間が必然的に短くなるのです。

また、「週休2日」「長期休暇取得可」「連休が多い」との記載があり、日本に比べると労働環境が良いといえます。

ただ、海外の寿司屋であっても日本と労働環境が変わらない店も多く存在します。特にアジア圏では、ランチ営業や深夜営業している寿司レストランも多いので、思い描いているような求人は見つかりにくい可能性があります。

労働環境を重視するのであれば、労働者が法律で守られている国が多いヨーロッパを中心に求人を探してみるといいです。

海外の寿司屋に就職するデメリットもある

なお、寿司職人として海外移住を考えている人も多いのではないでしょうか。実際に求人が多いので移住実現のハードルも高くありません。ただ、デメリットを知らないと「思い描いていた海外生活ではない」と後悔する可能性があります。

デメリットを理解することは、海外求人を選ぶときのポイントにもつながります。デメリットは以下の3つです。

  • 日本よりもレベルの低い店が多い
  • 海外ならではの苦労がある
  • 寿司を握る以外の業務も多い

それぞれ詳しく説明します。

日本人が経営していてもレベルの低い寿司屋が多い

「日本人が経営している店なら間違いなく美味しい」ということはありません。私の住んでいる街にも日本人が経営する日本食レストランがあります。

外国人の間では「リアルジャパニーズが作ってくれるから美味しい」と人気ですが、日本人の間では高評価ではありません。実際に私も行ったことがありますが、「日本人シェフでもこんな低レベルの店があるのか」と驚いたくらいです。

つまり、日本人が経営している日本食料理店であっても必ず美味しいわけではないのです。このような店に就職してしまうと、その国でしか通用しない寿司職人になる可能性があります。モチベーションを高く維持し続けない限り、あなたの腕を十分に磨けません。

そのため、特に「オーナーが外国人」「日本人のお客さんが少なく、現地の顧客がメイン」「日本人シェフが少ない」「未経験者を募集している」という店に就職する場合は注意が必要です。例えば以下のような求人がこれに該当します。

大阪にある寿司チェーン店がタイにお店をオープンさせるため、現地で働いてくれる寿司職人を募集しています。ただ、「未経験者OK」の記載があり、学歴不問・語学不問なため誰でも応募できます。

マニュアルに基づき丁寧に指導してもらえるので「寿司職人を目指しているけど経験が無い」という人には魅力的な求人ですが、経験がある人には向いていません。

一方で、オーナーが外国人の場合だとメニュー開発などを任され、自由度が高くやりがいを感じられるという魅力があります。ただ、腕を磨きたいのであれば、ミシュランの星を獲得した高級寿司店など、技術を磨ける環境が整った職場を探すようにしましょう。

日本にはない海外特有の苦労がある

さらに、海外の寿司屋で働くと思い通りにいかないことがたくさんあります。

  • 日本のような新鮮な魚が手に入りにくい
  • ネタが小さい、魚の種類が少ない
  • 時間通りに魚が届かない
  • お客さんは何でも醤油をかけてしまう
  • 肉の薄切りはないので自分で切らないといけない

このように、問題を挙げていくとキリがありません。

これら一つ一つに最初は驚くかもしれませんが、受け入れなければ海外で寿司職人として活躍していくことは難しいです。

少ない種類の魚でお寿司のバリエーションを増やしたり、鮮度が低くても美味しく食べられるお寿司を開発したりする適応力のある寿司職人が海外で重宝されます。

「寿司を握る」ことに集中できない職場もある

日本だと多くの寿司職人は、カウンターの中でひたすら寿司を握ります。しかし、海外ではホールを任されたり、お寿司以外の日本食の調理をしたり、洗い物をしたりとお寿司を握ることに集中できない職場も多いです。

特に店舗内の日本人スタッフが少ないと、日本人への接客や日本食の調理を兼任しなければならないことがあります。例えば以下のような求人がこれに該当します。

勤務地はカナダの田舎町にある寿司をメインとした和食レストランです。仕事内容には、「日本食の調理」「仕込み」「洗い物」といった記載があり、寿司の調理以外の業務を担当することがわかります。

一方で、以下のような求人であれば寿司職人としての仕事に集中できます。

寿司職人の求人を募集しているのはシンガポールにあるミシュランを獲得した高級寿司店です。ここでは寿司カウンターでの業務がメインとなります。

ミシュランを獲得している店なので寿司調理の経験が5年以上求められます。このようなレベルの高い店を選べば、寿司職人としての腕を磨くことに集中できます。ただ、「月間休日は5日程度」と休みが多い労働条件ではありません。

海外と日本のお寿司の相違点

また海外で寿司職人として働くのであれば、海外の寿司事情について知っておく必要があります。

私は寿司職人ではありませんが、外国人の友人と寿司を食べに行ったり、ホームパーティーでちらし寿司をふるまったり、手巻き寿司を会社に持っていったりして多くの外国人の寿司に対する反応を見てきました。

その中で気づいた、海外と日本で寿司に関する相違点について紹介していきます。

握りよりカラフルな巻物が人気

私はヨーロッパの様々な国でカジュアルな寿司屋に行きました。その中で印象的なのが巻物のカラフルさです。日本だと巻物といえば海苔で巻くのが一般的ですが、海外では海苔を内側に敷いたいわゆる「カリフォルニアロール」が主流です。

鮮やかなオレンジ色や緑色に着色した「とびっこ(まさご)」やカラフルなふりかけが表面に乗っています。

ちなみにこの写真は、オランダで人気の寿司屋(中国人経営)からデリバリーを注文したときのものです。

中に入っているネタは刺身よりカニカマ・ツナマヨ・エビフライといった生魚とは関係のないネタも多いです。「限られた刺身しか手に入らない」「生魚が苦手な人が多い」といった背景から、日本とは異なるスタイルの寿司が発展しているのです。

お寿司に対する認識のズレ

海外の友人と話していると「お寿司はとってもヘルシー」「日本人は毎日お寿司を食べているんでしょ?」と言われることがあり驚きます。特に欧米人は料理をしない人が多いので、お寿司がどのように作られているのか全く想像できないようです。

そこでヘルシーなお寿司を開発してみたり、家庭料理のお寿司「チラシ寿司」をお店で提供したりするなど、認識のズレを活かしてメニューに反映させられる寿司職人が海外で活躍できます。

ベジタリアン寿司の需要が高い

日本ではベジタリアンは珍しいですが、海外だと普通です。そのため、海外の寿司屋ではメニューにベジタリアンマークがついています。

また、ベジタリアン向けのお寿司も充実しています。きゅうり・アボカド・たまご・茎わかめ・枝豆・チーズ・いなりなどのネタを組み合わせた巻物や握りをよく見かけます。ただ、日本のお寿司とは程遠い味のものも多いです。

このように日本と海外のお寿司には様々な違いがあり、まだまだ改良できる余地があります。現地の人の嗜好に合わせたメニュー開発やリアルな日本の味を提供できる寿司職人であれば、寿司職人として海外で重宝されます。

独立は容易ではない

なお中には、「海外でいきなり自分の店をもちたい」「海外転職して、しばらくしてから独立したい」など夢や目標を持っている人も多いと思います。ただ世界中でお寿司ブームとも言えますが、海外でお店を出すのは容易ではありません。

現地の人の性格や文化・宗教などの事情をよく理解した上で出店しなければ失敗してしまう可能性が高いです。また、海外で日本食レストランをオープンさせようとすると、現地の中国人マフィアから嫌がらせを受けるという話をよく耳にします。

中国人経営の日本食飲食店が多い街では、「本物の日本料理を提供するお店が進出すると都合が悪い」と考える中国人が多いのです。そのため、契約が進んでいたテナントから急に断られるのは普通です。

私の知り合いはオランダの高級ホテルにある日本食レストランで板前として腕を磨き、中国人ビジネスパートナーと組んで開業していました。オープンはスムーズでしたが、その後にビジネスパートナーが脱税で捕まってしまい、店も閉店を余儀なくされてしまいました。

長年の経験があり非常に腕の良いシェフであっても、海外でお店を持つのは容易ではありません。

その他、ラーメン店を開業させた店主が「本当はお酒を提供する予定だったが、店の間取りの問題で役所から許可が下りなかった」と話していました。

このように海外での独立ではトラブルがつきものです。もちろん、外国全ての場所でこのような苦難があるわけではありません。ただ、海外で独立は容易ではない現実を理解しておいた方がいいです。

独立を目指すにしても、海外でいきなりお店を持つのはリスクが高すぎるので、まずは寿司職人として雇ってもらい、経験を積んでその土地の事情を十分理解してからにすることをおすすめします。

まとめ

日本で就労経験のある寿司職人・板前であれば、海外の仕事探しにはまず困りません。世界中で求人を見つけることができ、日本国内よりも労働条件が良い職場を探すのも簡単です。

一方で、海外の寿司レストランの中にはレベルの低い店も多く、腕を磨ける環境を選ばなければ、その国でしか働けない寿司職人になってしまいます。また、日本のように新鮮なネタが入りにくかったり、寿司を握ることに集中できなかったりと日本とは異なる環境下で働かなければなりません。

その他、海外では握りより巻物に力を入れていたり、ベジタリアン向けの寿司が充実していたりなどと、メニューが大きく異なります。そのため、一方的に日本の味を伝えるだけでなく、その土地や風習に合わせたメニュー開発もできる寿司職人が重宝されます。

これらのことを念頭に置いて、寿司職人・板前として転職活動を始めてみるといいです。


海外転職を実現するときであっても、転職サイトを利用するのが一般的です。日本に居ながら転職活動をするのが普通なのです(海外在住者も同じく転職サイトを使い、現地で活動する)。

ただ、海外転職に対応している転職エージェントは少ないです。日本にある転職サイトはほとんどが国内求人のみに対応しているからです。ただ探せば、問題なく海外求人に対応している転職サイトを利用することができます。

しかし、海外求人はそれ自体がレアです。また、「アジアに特化している」「専門性の高い求人ばかり保有している」など、転職サイトごとに特徴があります。そこで、2~3社の転職エージェントを利用して、見比べながら求人を探さなければいけません。

人によって狙っている国や求人は異なります。そこである程度まで求人の条件を絞って転職活動をしましょう。そのために必要な「海外対応の転職サイト」の特徴や違いについて、以下で記しています。