「大手商社の海外駐在員」といえば、勝ち組のような印象を持っている方は多いのではないでしょうか。確かに大手商社の海外駐在員のポジションに就けば、高待遇が約束され、数年間で貯金が大幅に増えます。

ただ、総合商社の海外駐在員の求人は数が少ないので競争が非常に激しいです。そのため、高い学歴・語学力が必須となります。一方で、高待遇な現地採用の海外求人や国内勤務で海外出張を伴う求人であれば、豊富に見つかります。

つまり商社勤務を実現するとはいっても、求人の見つけ方を理解しなければ転職することはできません。

ここでは、総合商社・大手商社を含め「商社の海外駐在員」を目指す上で必要なこと、さらには現地採用での海外勤務の選択肢についても解説していきます。

海外駐在員の数は減少傾向にある

実は海外駐在員の数は減少傾向にあります。これには3つの理由があります。

  • リモートワークのため、場所にとらわれず仕事ができる
  • グローバル化によって現地化する企業が増えた
  • 駐在員の人件費が高い

それぞれ説明していきます。

リモートワークによって、駐在員の存在意義が減っている

いまではリモートワークで大半の仕事が場所を特定せずに行えるため、そもそも現地に駐在する必要性が減っています。顧客回りなど必要なときだけ海外出張すれば対応できるケースが多く、海外駐在員の数を減らす日系企業が増えているのです。

また、日本の企業は顧客と直接会って話をすることが大切だと考えますが、海外では「迷惑」と捉えられることがあります。

特に欧米人は定時で帰ることを最優先にするので、長時間のミーティングや顧客企業の挨拶周りなどを嫌がる人が多いです。「自分たちの仕事時間を奪いに来る迷惑な人」とみなされることすらあります。

つまりグローバル基準からすると、駐在員の大きな仕事の一つである「顧客回り」すら、そこまで重要な仕事ではないのです。

このようにネット環境の発達によってリモートワークで完結する仕事が増えているため、駐在員の必要性が低下しています。

グローバル化が進み、現地化を進める日系企業が増えた

また、グローバル化に伴い海外支店を現地法人化し、それぞれの地域に合わせて運営する日系企業が増加しました。それまで多くの駐在員を派遣してきた海外支店は、現地法人化することで、基本的に人材も現地採用で集めることになります。

実際に私はヨーロッパで暮らしていますが、知り合いの日系企業でも「駐在員がゼロになる」「駐在員が日本に帰任することになったが後任は来ない」という話をよく聞きます。

そのほうが現地法人にて現地の税率で申告できたり、事業への制約がなくなったりするので会社としてメリットが大きいのです。駐在員をゼロにすることで、自由な経営展開が可能になります。

駐在員を減らせば人件費を削減できる

なお当然のことですが、駐在員を減らす理由に「人件費の削減」という目的もあります。駐在員を1人派遣するのに大きなコストがかかります。会社は駐在員に対して給与だけではなく、住宅費・車・医療保険代など福利厚生の手当も支給しなければなりません。

日本の給与はそのまま日本で支払い、海外給与を別で支給する商社も多く、海外駐在中は日本で働いていたときに比べて収入が2~3倍以上になることも珍しくはありません。

また、家族がいる場合は家族手当や子どものスクール代も大部分を負担する会社が多いので、駐在員の人件費はバカにならないのです。例えば、ヨーロッパでアメリカンスクールに入れる場合、年間の学費は200万円程度です。

一方で現地社員であれば、様々な手当が不要であり、コストを大幅に抑えられます。そのため、駐在員を減らして現地採用で優秀な人材を雇いたいと考える企業は多いのです。

以上の理由により、海外駐在員の数自体が減っており、当然海外駐在を目指せる中途採用の求人数も少なくなっています。

ただ、求人がゼロではありません。商社の中には「海外駐在員の候補者が社内にいない」という話も耳にします。例えば私の友人の勤める商社では「海外に行きたくない」という社員が多く、海外赴任の話がきても断る人が多いそうです。

人によって理由は異なりますが、「海外志向が低い」「結婚が遅れる(女性の場合)」「子どもの受験と重なる」といった理由が多いと話していました。そのため、常に駐在員候補が不足しているそうです。

そのような商社では、中途採用で駐在員候補を採用することがあります。

商社の海外駐在求人で求められること・能力とは

それでは、中途採用から商社の海外駐在員を目指す場合、何が求められるのでしょうか。それは、「語学力」「学歴」「経営力」の3つです。

それぞれの内容を詳しくみていきましょう。

語学力が高くなければ即戦力にならない

「語学力が必須」と述べましたが、実際のところ海外駐在員の中には英語がほとんど話せない人もいます。特に大手企業で駐在員の数が多いと日本語のみで業務を遂行できることもあり、仕事には不自由しません。私も英語を話せない駐在員をたくさん知っています。ただし、彼らは中途入社ではなく、新卒で就職しています。

例えば新卒の採用試験で、「大学ではアメフト部のキャプテンをしており、全国大会優勝しました!」と言えば、たとえ英語が話せなくても大手商社に受かることがあります。

一方で中途入社の場合は、大学時代の活動内容よりも「即戦力になるか」が重要視されます。

大前提として「ビジネス英語が話せること」は必須です。なぜなら海外の顧客は日本のメーカーと直接やり取りするのが面倒だから日本の商社を利用するケースが多いからです。このとき担当者の語学力が低いようでは仕事になりません。

そのため、海外駐在員を前提とした商社へ中途入社する場合、語学力は応募必須条件に挙がります。例えば以下のような求人がこれに該当します。

日系総合商社での海外営業のポジションです。担当地域の営業や現地スタッフのフォローや市場分析・問い合わせ対応などに従事します。そのため、応募必須条件には「ビジネスレベルの英語力」と記されています。

ちなみに求人票には、「入社3~4年後に海外駐在の可能性がある」との記載があり、アメリカ・ヨーロッパ・アジア諸国へ海外赴任できるチャンスがあるポジションです。

商社の選考では学歴でふるいにかけられる

また、いまでは「学歴社会は終わった」ともいわれますが、実際のところ就職において学歴で判断する企業はまだまだ存在します。特に人気の高い企業では一人一人の書類審査に時間をかけられないので学歴でふるいにかけます。

特に、大手商社・総合商社は中途採用であっても多くの人が受けるため、まず学歴で候補者を絞ることがあります。学歴を重視しているかどうかは、実際に働いている人の出身大学を調べれば歴然です。例えばある大手商社の場合、旧帝大と早慶上智が圧倒的なボリュームを占めています。

もちろん求人票の応募必須条件にそのような記載はありません。以下の求人を見てみましょう。

大手総合商社での海外営業の求人です。アフリカ地域での自動車海外営業あるいはデジタルマーケティング担当者を募集しています。

海外営業職であれば、自動車輸出貿易や現地代理店との販売戦略・マーケティング業務、メーカーとの交渉を担います。またマーケティング職はデジタルマーケティングを使った販売促進活動が主な仕事です。いずれも海外勤務の可能性があるポジションです。

応募必須条件としては、それぞれの分野での実務経験・ビジネスレベルの英語力(TOEIC800点以上)が求められます。ここから即戦力を求めていることが分かります。

さらに、「4年制大学卒以上」という記載があります。この記載がある場合、「大卒以上なら誰でもいい」というわけではなく、「学歴も判断材料の一つ」ということを意味します。

もちろん「高学歴でないと可能性がゼロ」というわけではありませんが、学歴でふるいにかけられることもあるのです。

経営者としてのスキルが求められる

商社では海外の関連会社・子会社へ要職(CEO・CFO・COOなど)として派遣されることもあります。現地では外国人スタッフを束ね、会社の経営を任されます。

要職として海外派遣される場合、日本の数倍の給料など高待遇が約束されています。数年間の海外駐在でも貯金が大幅に増えるため、このようなポジションを狙っている人は多いのではないでしょうか。

中途採用であっても幹部候補のポジションに就けば同様のチャンスがあります。例えば以下のような求人がこれに該当します。

募集があるのは大手総合商社の営業職です。海外駐在の可能性のあるポジションであり、海外営業を中心とした営業の幹部候補です。数年間の国内勤務の後、あなたに経営スキルがあると認められれば、海外の会社で要職として経営参画することが期待できます。

応募必須条件は「5年以上の営業経験」「ビジネスレベルの英語力」のみです。年収は700~1500万円との提示があり、国内勤務であっても高待遇が狙えます。

経営力・マネジメントスキルがあれば、このような求人で商社の経営の中枢に携わることができるのです。

選択肢は商社の駐在だけではない!

ここまでの解説で、「商社の中途採用は厳しい……」と思った人も多いのではないでしょうか。高学歴で英語がビジネスレベルという人に限られており、さらには狭き門です。

ただ、商社の海外駐在だけが「出世コース」「勝ち組」ではありません。求人をよく探せば、高待遇な現地採用となったり、海外出張を通してグローバルに活躍できたりする国内求人も存在します。

そもそも求人票に「海外駐在あり」「海外転勤あり」と記載のある商社に転職できたとしても、具体的に何年目に海外駐在できるかは分かりません。5年後や10年後の可能性も十分にあり得ます。また赴任国を決めるのは会社であり、あなたが「この国がいい」と選べるわけではないのです。

そのため、「行きたい国がある」「すぐに海外で働きたい」という場合は海外駐在ではなく、現地採用の求人を探すことをおすすめします。例えば以下のような求人を見つけられます。

勤務先は中国・上海です。日系企業への新規開拓営業を担当します。応募必須条件は「法人営業経験3年以上で成果を出している」「社内コミュニケーションレベルの英語力」があることのみです。

駐在案件ではありませんが、年俸は750~850万円との提示があります。「海外で高給待遇にて働きたい」という方はこのような求人を探すといいです。

ただし、現地採用の求人はほとんどがアジア圏になります。なぜなら日本から近く、税金や人件費・物価の安いアジア圏で事業を行う日系企業が多いからです。

英語に自信がなくても現地採用であれば転職可能

また、ビジネスレベル以上の英語力が無い場合、商社の駐在ポジションを狙うのは現実的ではありません。しかし、現地採用であれば高い語学力がなくても応募できる求人を見つけられます。例えば以下のような求人がこれに該当します。

大手総合商社のグループ企業のタイ拠点でプロジェクトマネージャーを募集しています。プロジェクトの予算・進捗管理や取引先企業の選定・現場の問題解決などを担当します。

応募必須条件は「プロジェクトマネジメント経験」「日常会話レベルの英語力(書類確認やスタッフとの対話で使用)」との記載があります。社内コミュニケーションレベルなので日常会話ができれば問題ありません。

現地採用ですが、社会保険や医療保険などの福利厚生は充実しています。給与は月額28万円(1バーツ3.5円で算出)ですが、ボーナスが4~5カ月分支給されるので年収500万円近くになります。物価の安いタイではかなりの高収入です。

このように現地採用であれば、高い英語力がなくても海外就職できます。

海外出張の多い国内商社求人も選択肢の一つ

なお海外赴任(現地採用)ではなく、海外出張の多いポジションを狙うのも一つの方法です。国内勤務になりますが、海外出張を通してグローバルに活躍できます。例えば以下のような求人がこれに該当します。

大手商社の子会社で産業機械の提案営業担当者を募集しています。ボイラーやエンジン各種・関連設備などを取り扱います。海外から機械を輸入するため、台湾・イタリア・フランス・ドイツ・アメリカといった取引先のある国へ2か月に1回程度海外出張に行けます。

入社段階では営業力を重視するため英語スキルは不問です。入社後に習得すれば、グローバルな仕事が任されます。

応募必須条件は「高専卒業以上」「機械営業もしくはメーカーでの営業経験」のみです。年収は450~700万円との提示があります。

このような求人は豊富にあるため、海外駐在にこだわらなければ、比較的容易に海外で活躍できる求人を見つけられます。

まとめ

海外駐在の可能性のある商社へ中途採用で入社するには「高学歴」「高い語学力」が求められます。海外駐在員の数は減少傾向にあるため求人が少なく、ポジション争いは激しいです。ただ海外駐在員として選ばれた場合、高待遇が約束されているためチャレンジする価値はあります。

一方で「海外ですぐに働き始めたい」という場合は、商社の駐在員にこだわらない方が賢明です。現地採用であっても高待遇な求人や、国内勤務だけど海外出張が多いポジションなどに視野を広げてみるといいです。また、英語に自信がない場合も現地採用枠であれば求人が見つかります。

まずはあなたにどのような選択肢があるかを調べ、できるだけ多くの求人に目を通して検討してみるといいです。

海外転職は「ハードルが高い」「自分には難しい」と思う人も多いですが、候補を絞りすぎなければチャンスはいくらでもあります。


海外転職を実現するときであっても、転職サイトを利用するのが一般的です。日本に居ながら転職活動をするのが普通なのです(海外在住者も同じく転職サイトを使い、現地で活動する)。

ただ、海外転職に対応している転職エージェントは少ないです。日本にある転職サイトはほとんどが国内求人のみに対応しているからです。ただ探せば、問題なく海外求人に対応している転職サイトを利用することができます。

しかし、海外求人はそれ自体がレアです。また、「アジアに特化している」「専門性の高い求人ばかり保有している」など、転職サイトごとに特徴があります。そこで、2~3社の転職エージェントを利用して、見比べながら求人を探さなければいけません。

人によって狙っている国や求人は異なります。そこである程度まで求人の条件を絞って転職活動をしましょう。そのために必要な「海外対応の転職サイト」の特徴や違いについて、以下で記しています。